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年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学 エンリコ・モレッティ

給与は学歴より住所で決まる-
そんな社会を皆さんはどう思われるでしょうか。
誰にでもチャンスが訪れる開かれた社会と取るか、あるいはとんでもなく不平等な社会だと憤るか。賛否渦巻くことが予想される話題ですが、なんとそうした社会は現実に既に到来しているというのです。

年収は住むところで決まる、という衝撃的なタイトルが印象的な本書。
一見するとトンデモ本のように思えますが、実は詳細な学術的な研究の成果に基づいた大真面目な一冊です。
扱われているのは主に米国の事例ですが、日本でも進行しつつある現実なので読むのに障害はないでしょう。

 とにかく目次に目を通して見て下さい。
非常に興味を惹かれる話題が満載です。
「上位都市の高卒者は下位の都市の大卒者よりも年収が高い」
「先進国の製造業は復活しない」
「隣人の教育レベルがあなたの給料を決める」
どうです、一読の価値があると思いませんか。
嘘のような話題や信じたくないような事例も出てきますが、全部本当の話です。
思い込みでなく、詳細なデータによって次々と衝撃的な事実が証明されていきます。
著者はイタリア出身の経済学者、都市経済学及び労働経済学が専門とのこと。
本書の刊行時の2014年の時点では、カリフォルニア大学バークレー校の経済学教授の地位にあるそうです。

 

日本ではまだまだ名前が知られているとは言い難い著者ですが、アカデミックな経済学の世界では既に相当な実績を積み重ねているとのこと。そうした研究の集大成として本書が刊行されました。
アカデミックの王道を行く著者らしく、いわゆるハウツー本ではなく経済と社会についての仕組みへのまじめな考察が本書の最大の読みどころ。
「どこに住んだら年収をたくさんもらえるか」ではなく、「なぜ都市間で経済格差が生み出され、そのことにより社会にどのような影響が表れるか」について扱っています。
私なりに著者の主張をまとめると、経済成長の決め手になるのはイノベーションと技術進歩であり、一部の勝ち組都市にその恩恵は集中するということです。
著者が注目するのは雇用数のデータ。

従来型の製造業は1件の雇用を生み出すと、それに伴い地域に新規雇用を1.6件もたらしてきたとのデータを提示。

それに対して、ITなどのハイテク産業の場合、地域にもたらす雇用創出効果は5件にも及ぶそうです。
地域の雇用に与える影響力はなんと3倍。イノベーション産業やハイテク産業が中心産業として発展、それを補う補完的な産業が集積され、最終的には彼らを支えるサービス業者が多数の雇用を生み出す。21世紀型の都市経済の成長パターンモデルを提示しています
シリコンバレーやシアトルではなぜ成長が続き、デトロイトはなぜ没落したのか。
その答えは本書にあります。


産業構造の変遷からみる経済圏の変遷

まず参考になるのは、本書で取り上げられるアメリカを中心とした先進国では、従来の製造業からハイテク産業にシフトチェンジが起きているということ。
それ自体は今までも言われてきたことですが、著者の専門の都市経済に関する研究と絡めて新しい視座を提供します。

製造業を主力産業とする都市経済圏は沈み、ハイテク産業に代表されるイノベーション産業を主力産業とする都市経済圏が成長を続けるという事実です。
これによって都市間の格差は開き続け、その地域に住む人々に大きな影響を与えていくことになるのです。

製造業とイノベーション産業の違いは至ってシンプル。大規模な製造業は世界中のどこにでもアウトソーシングをすることはできるが、人的資源がものをいうイノベーション産業はそう簡単に拠点を移せないと著者は語ります。
製造業の生産拠点が賃金の安い途上国に流出していく流れは、もはや止めようがありません。
それに対し、イノベーション産業は独自性のあるアイデアをもつごく少数の起業家によって生み出されます。
そうした人材が生まれる仕組みは、一朝一夕に真似できるものではありません。

先進国の強みは、優秀な人材とそれを生み出す教育システムにあるのです。
フェイスブックの創業者マークザッカーバーグの次のような言葉の引用は象徴的です。
「本当に優秀な人は、そこそこ優秀な人材の100倍優れている」
しかも、先ほど触れた通り、雇用を生み出す力はイノベーション産業が何倍も上。
明らかに先進国の産業のシフトが起きたのです。
製造業を中心とした経済政策はその流れに逆行するもので、今や時代遅れとなりつつあるのです。

今後のマクロ的な経済政策を考えていく上で絶対に見落とせない視点だと感じました。
イノベーション産業が成長エンジンとなり、都市経済圏が発展していくダイナミックな様子の描写も本書の読みどころの一つです。
タイトルの住むところで年収が決まる訳も鮮やかに解説されています。
優秀な高技能の働き手が増えると、それ以外の普通の労働者の生産性まで高まる、相互補完性。優秀な人材によって、企業が先進的な技術や戦略を取り入れやすくなる、新テクノロジーの導入。

高度な知識を持つ人同士の交流が盛んになり、知識の伝播が促進され革新的な取り組みが次々生まれる、人的資本の外部性の作用。
この3つの効果により、地域全体の経済が成長して高給取りが増えて消費が活性化されます。

すると、低賃金になりがちなサービス産業にまでその影響は及び、この地域の高卒者の年収が他地域の大卒者を上回るという現象が起きることが証明されました。
こうなると成長はさらに拡大し続けます。

イノベーションの中心で働きたい超優秀な人材、少しでも高い賃金を得たいそれ以外の労働者の両者がその地域に引き付けられます。

こうして人口増加により更に需要が増加、経済成長は続いていきます。
経済は生き物だということを実感させられ、興味深く読むことができました。
正統な経済学に裏打ちされた本書ですが、読み物としても実に面白くてタメになるので経済学の入門書としても使えます。

仕事を探している人に読んでほしい本

就職、転職などで仕事を探す前には必読の書ですね。
事例はアメリカですが、著者自身が日本語の版の序文に寄せて先進国ならどこでも参考になる内容だと担保しています。

イノベーション産業の成長は今まで以上に勝者と敗者の差が大きくなり、富の偏在を生みやすい構造になっていると著者は指摘します。
高学歴で難関の資格を取ったとしても、住む場所によっては年収が大幅ダウンして大損をしてしまうかもしれない時代になったのです。
仕事の内容だけでなく、どこに住むかということも考慮しなければいけません。
就職活動、転職活動を始める前に読み、後悔しない選択をしたいものです。
非常に魅力的な内容の本書ですが、刊行から年月が経ちいくつかの疑問点も浮かんできました。

著者はイノベーション産業やハイテク産業がもたらす雇用増を重視していますが、それをそのまま受け取っていいのでしょうか。
サービス産業にもその恩恵が及ぶとのことですが、果たしてそう上手くいくかどうか。
サービス業にはシェアリングエコノミーの発展や、移民との就業競争、機会による自動化の波が押し寄せています。
こうした影響により、周囲に比べて低賃金のまま据え置かれたサービス産業の労働者が目に付くようになっています。
地域の経済成長は継続するのかもしれませんが、その上で莫大な格差が生み出される可能性も私は捨てきれないと感じています。
本書の知見を踏まえた上でのさらなる議論の発展に期待したいところです。
経済学を本格的に学んだ方々にはぜひ本書を読んでいただき、活発に議論を行ってほしいと感じています。
本書ではそこまでは描かれませんが、没落した都市の人々は政治に不満を持ち、トランプ大統領の誕生につながりました。
政治と経済の密接な関係性を思い出させてくれる良書なので、アメリカ政治に興味がある人にもおすすめです。

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年収は「住むところ」で決まる  雇用とイノベーションの都市経済学

年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学