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破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略 葉村真樹

現在LINE株式会社の執行役員(広告事業戦略担当)で、過去にはGoogle日本法人(経営企画室兼営業戦略企画部統括部長)やソフトバンク(iPhone事業推進室長)、Twitter日本法人(広告事業統括および東アジアのブランド戦略統括)、AKQA日本法人(世界最大の広告会社WPP傘下のデジタルエージェンシー)、PwCコンサルティング(エクスペリエンスセンター長)などの外資系企業で日本市場の開拓(あるいは「日本侵略」)を担当された著者だから言える、これからのビジネスで生き残る企業となるための「原則」を具体例とともにまとめた本。

自動車、アパレル、百貨店、製造、流通、電機、金融、保険、出版、テレビ、音楽、広告等、業界再編の具体例は枚挙にいとまがないが、いずれの業界も新たに台頭した企業が「ディスラプター(破壊者)」となり、旧態依然としている企業の存在意義が問い直される事態となっていることは誰もが認めるところであろう。

 

 これらの例から著者が導き出した、今後必要とされる企業となるための生存戦略が具体的に解説されている。
それは、「人間中心に考える」(人間を中心にどのようにテクノロジーを活用し発展させるか)、「存在価値を見定める」(自らの存在価値=バリュー・プロポジションがいかにディスラプターにとって重要なものであるか)、「時空を制する」(従来は何百時間もかかっていたような仕事が数分でできるようになったことで、多くの時間を得ることになったが、その時間を搾取する側に立つか、搾取される側に立つか)の3原則である。これらの原則は、生物の進化と淘汰の歴史にも通ずるものであり、この「破壊」の歴史が繰り返されているのが現在の大きな業界再編のうねりの正体であると考えることができる。
となれば、これからの業界再編のうねりの中で勝者となるためには、どのような技術進化が必要なのかも予測可能である。

著者は、この勝敗を分けるものとして、カンブリア大爆発による<眼の誕生>からポストスマートフォン時代のUIまでを俯瞰したうえで、「インフォメーション」(情報認知伝達に関する技術の進化)、「モビリティ」(ヒトやモノの物理的移動に関する技術の進化)、「エネルギー」(先の2つの技術進化を可能とさせる動力源に関する技術の進化)の3つの技術進化を提示し、これらの技術進化を主導するディスラプターとなることを目指すよう示してくれている。

""WHY""から考え、それを言語化すること

具体例とともに理路整然と提示される生存戦略は、すべての企業人にとって参考となると考えれる。
特に私が参考となったのは2つある。
1つは、「人間中心に考える」という原則である。これは、最近の言葉で言うところの「デザイン・シンキング」にも通じる考え方である。このデザイン・シンキングは、まず問題点を見出し、それを解決するアイデアの発散と収束を繰り返し、その結果として新しい発想を得るという思考法のことであり、これを個人のレベルではなく、企業のレベルでも実践していくことが重要なのであると再認識させられた。

もう1つは、「バリュー・プロポジション」の考え方である。これからの時代に必要とされる企業となるために、「自分ならではの提供価値」と「他者が求めている価値」の2つの円が重なる部分(これが「バリュープロポジション」であり、存在価値である)を意識し、その部分を徹底的に磨いていくことが不可欠だという指摘は、もっともでありながら、なかなか出来ていないと考えさせられる。

特に、著者がキャリアを磨いた外資系企業などと比べ、日本企業はこれらの言語化作業が抽象的なレベルで止まっていることが多いように思われる。この状況を変えていくためには、筆者が本書内で紹介したTEDスピーカーのサイモン・シネック氏の「ゴールデン・サークル」の考え方がとても重要である。これは、""WHY""と""HOW""と""WHAT""の三つの重なり合う円のことを意味し、この中でも""WHY""から始める(""START WITH WHY"")という考え方のことである。

つまり、なぜ自分の会社は存在しているのかという""WHY""から考え、それを言語化することが、その企業がこれからも生き残っていけるかどうかを左右するということであり、この部分での言語化と対外的な発信、実際の企業行動が繋がっており、世の中でも受け入れられれば、「破壊」の時代においても淘汰される側に回ることはないということである。
このような指摘は、至極真っ当であり、とても納得できるものだった。

私自身、自分の所属する企業の存在価値を再度考え直し、社内で改めて共有するべきだと強く思うきっかけとなっただけでなく、個人的に「日本侵略」を進める外資系企業に対する見方をも変えてくれるきっかけともなった。彼らの動きをネガティブに捉えるのではなく、むしろドメスティックな思考に囚われている日本の企業を根本的に変えていくためのきっかけとしてポジティブに捉えることができれば良いのだと捉え直すことができた。


すべての企業人におすすめできる一冊

今まで紹介してきたように、この本は、第一には全ての企業人におすすめしたいと思う。
ただ、やはり企業人の中でも、企業の今後をリードしていける立場の人間が読むべき本であると思う。いくら企業の若手がこの本を読んで行動を変えようと思っても、上の人間たちが変わらなければ何も変わらないからである。

その意味では、第二にはベンチャー企業などの、若くてフットワークの軽い企業にも一読をおすすめしたい。

ベンチャー企業には大企業にあるような硬直した組織はないからである。むしろ、気づいた人がどんどん提案して変えていけるのがベンチャー企業の特徴であるから、自らが本書の原則と技術を理解し、それを体現することで、業界内の「ディスラプター(破壊者)」として存分に力を発揮すれば良いと思う。
そして、企業人だけでなく、これから企業に就職を考えている学生の方々にも本書を手にとってもらいたいと思う。
なぜなら、これからの社会において何が大事なのか、という価値観自体が大きく変わろうとしていることを理解した上で、自らの進路を選ぶべきだと考えるからである。また、どのような企業を選ぼうとも、その中で何を大事にして仕事をしていくのかを考えておく機会となるのではと考える。
いずれにせよ、本書は、一人で読んで終わるのではなく、複数人で読んで意見を交わす中でこそ、真価を発揮するのではと思う。私自身も、自社の役員たちと共に読み込むことで、会社を具体的に変えるきっかけにできると考えているからである。

 

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破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略

破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略