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試練と挑戦の戦後金融経済史 鈴木淑夫

この本は、日本銀行の金融研究所所長や野村総合研究所理事長、衆議院議員を歴任した鈴木淑夫氏が、2016年5月に岩波書店から出版した作品です。内容は、第二次世界大戦終結後の日本経済の復興、発展、バブル発生と崩壊、そして現在に至るプロセスにおいて、どのような金融政策や経済政策が発動されてきたかを記したものとなっています。

この本では、大きく3つの項目に分けて、戦後の日本の金融経済政策運営について述べられており、第1章として敗戦直後から高度成長期の日本経済と金融政策について書かれています。この章の冒頭では、第二次世界大戦における度重なる空襲による被害などによって、敗戦直後の日本の国富の約25%が失われたと述べられています。

 制空権を失っていたため、頻繁に空襲を受け、建築物や工場、機械器具などが破壊されたためです。そのため、1945年の鉱工業生産は1941年と比較して約43%の水準にまで減少していたのでした。

戦後の日本では、復活した需要に対応するため、生産設備の建築など復興に向けて動き始めましたが、日本政府には資金がありません。このため、民間の資金需要に応えたのは日本銀行でした。政府が発行する国債を、日本銀行が引き受けたり、日本銀行が政府に資金を融資するなどしていたのです。日本銀行主導による信用膨張が実施され、さらに1950年に朝鮮戦争が勃発したため、日本国内に特需が発生し、日本経済は復活していったのでした。この時期の日本銀行の役割は、資金供給や信用膨張にあったのです。
1960年代に日本が高度成長を果たすことができた要因としては、生産設備が充実しつつあり、輸出能力が高まったことと、為替レートが1ドル360円に固定されていたことが挙げられています。また、一般家庭の貯蓄率の高さも挙げられます。このため、家計貯蓄を民間の設備投資にまわすことができ、生産能力を拡大させたうえで、輸出量を大幅に増やすことができる好循環が生まれたのでした。

なお、高度経済成長期の日本銀行における金融政策は比較的簡単であり、景気が過熱すれば金利を引き上げて金融引き締めを行い、景気が停滞したと判断すれば低金利政策を実施し民間需要の喚起を行うだけで良かったと述べられています。
第2章として、日本経済の挫折という項目が設けられ、バブル生成のプロセスと、バブル崩壊からデフレが長期化したことの要因について述べられています。バブル生成の要因としては、アメリカ経済の悪化にともなってプラザ合意が実施され、為替レートが大幅に円高水準へ移行し、輸出産業が不況下したため、日本政府が大規模な財政出動をおこない、日本銀行も低金利政策を実施したことが挙げられています。そして、バブル崩壊後の不況が長引いた要因としては、日本銀行の金利引き下げのスピードが遅かったことも挙げられると述べています。

第3章として、現在の安倍政権が実施している大規模な金融緩和政策について述べています。しかし、この金融政策については現在も継続中であり結論が出ていないため、やや控えめに感想が述べられています。具体的には、2%のインフレ目標達成は難しいと思うと述べたり、消費増税を実施すると金融政策の効果を弱体化させるなどと述べています。

 

過去の金融政策を振り返ることができる

この本を読んで役に立ったことは、過去の日本銀行の金融政策を振り返ることができ、現在の大規模な金融緩和政策を冷静に客観的に見つめることができることになったことが挙げられます。この本を読むまでは、日本銀行の金融政策は万能であるという考えを無意識のうちに抱くようになっていました。しかし、この本を読んだことによって、ときには薄氷を踏む思いで金融政策を実施して、なんとか戦後復興を果たし、ときにはバブル崩壊対応に失敗し不況を長引かせてしまったことに気づかされました。

このため、この本を読むまでは、個人的に株式投資を行っている私は、日本銀行が大規模な金融緩和政策を続けている間は、永遠に日経平均株価が上昇し続けると思っていたのです。しかし、この本を読んでからは、日本銀行が金融政策を実行していても、日経平均株価が上昇し続けるとはかぎらないと判断できるようになったのです。

具体的には、2013年春に日本銀行が大規模な金融緩和政策を打ち出したときは、大幅に日経平均株価は上昇し、大幅に円安が進みました。このため、私も株式投資やFX取引で多額の利益を得ることができたのですが、2016年に入ると、2014年に実施された消費増税の影響もあり消費者物価上昇率がマイナスに転落し、再びデフレ状況となりました。このため日経平均株価は下落に転じてしまい、私も株式投資で多額の損失を被ってしまったのです。無条件で、日本銀行の金融政策を信じ続けたことが株式投資で損失を被った要因でした。
その後、この本を読んでみたところ、日本銀行でも金融政策に失敗したことがあるのだと知り、目から鱗が落ちる思いがしました。それからは、日本銀行の金融政策を信じるだけではなく、冷静に日本経済全般や、世界経済全般の状況を勉強して分析することが重要だと知ることができました。さらには、日本銀行の金融政策そのものについても、実効性が高い政策なのか否かを自分の力で分析できなければならないと考えるようになったのです。
その結果、もはや日本銀行がこれ以上、日経平均株価に連動するETFを購入し続けることは困難と判断することができましたし、市場に流通している国債をほぼ吸い上げてしまったため、大規模な国債購入も不可能と判断することができました。つまり、これ以上、日本銀行が金融市場に対して大量の資金供給を実施することが困難であると判断できるようになったのです。

そして、これ以上、日本銀行の金融政策の力だけでは日経平均株価は上昇しないとの結論に至ることができました。そのため、2018年に入ってから、著名なアナリストが年内に日経平均株価は3万円を突破するとテレビの経済番組で明言したとき、私は冷静な気持ちで聞き逃すことができたのでした。実際、2018年に入ってからの日経平均株価は1月につけた24000円台が最高値であり、一時は20000円台まで暴落し、その後は22000円台で推移しています。私は24000円台のときに高値掴みをせずに済みましたので、この本のおかげで、自分で株式投資の売買についての判断能力を高めることができて良かったと感じています。


証券会社の調査部門に勤務する方におすすめ


この本は、証券アナリストや証券ストラテジストといった証券会社の調査部門に勤務する人たちへ、おすすめできる本です。多くの証券ストラテジストや証券アナリストといった人たちが、テレビ番組やラジオ番組、投資雑誌に登場しては「現在は、日本銀行が大規模な金融緩和政策を実行中のため、基本的に株価の下値は限定されている」と発言するケースが多いようです。

しかし、残念ながらその予想が外れるケースが多いのも事実といえそうです。そもそも、2013年に現在の黒田総裁が就任して以降の日本銀行が、大規模な金融緩和政策を決断してから日経平均株価は右肩上がりで上昇してきたわけではありません。2013年夏から2014年秋までは、14000円台から15000円台で横ばいが続きました。また、2015年8月にはチャイナショックが発生し、20000円台だった日経平均株価は一気に16000円台まで下落したのです。さらには、2016年初頭から2016年秋のアメリカ大統領選挙までは長らく16000円台前後で推移しました。そして、2018年1月に24000円台をつけたあとは3月には20000円台まで下落し、現在は22000円台で横ばいを継続しているのです。

証券アナリストや証券ストラテジストの方たちは、もっと中央銀行が実施している金融政策の内容と、実効性について綿密に分析する必要があると思います。その手助けとなる書籍が、この本だと思うのです。

この本を読めば、2019年秋に予定通りに消費増税を実施すると、文字通り日本銀行の金融政策の効果が消し飛んでしまう恐れさえあると思うのです。しかし、現状においては、証券アナリストや証券ストラテジストの方たちからは、消費増税について警鐘を鳴らす発言は聞こえてこないようです。この方たちの奮起を促したいと思います。

 

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試練と挑戦の戦後金融経済史

試練と挑戦の戦後金融経済史