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賢者の投資 古賀 信行 (著, 監修), 佐々木 文之 (著)

この本は、野村ホールディングス会長の古賀信行氏と野村證券投資情報部の佐々木文行氏が、編著者として2015年12月に出版した作品です。内容は、過去に発生した金融危機を、6つのパターンに区分し、どのような要因で金融危機が発生し、どのような政策発動等によって金融危機が解決へ向かったのかを記したものとなっています。

ひとつの例として、公的資金による資本注入を挙げています。この例の代表的事例が、1990年代に発生した日本のバブル崩壊と不良債権処理問題です。そもそも日本でバブルが発生した要因は、アメリカの強い要請によるドル安誘導でした。このため1985年にプラザ合意がなされ、大幅なドル安円高が進行し、日本の輸出産業は苦境に立たされました。

 この状況を打開すべく日本政府は財政出動を実施し、日本銀行は低金利政策を進め、内需振興を図ったのです。しかし、政府や日本銀行による金融引き締め策の実施が遅れたことにより、不動産や株式などの資産価格バブルが発生してしまったのでした。

結局、資産価格バブルは崩壊し、日本国内に膨大な不良債権が発生してしまいました。日本政府は何回も財政出動を行い、景気浮揚を図ることによって、民間企業が自力で不良債権処理を進めることを期待したわけですが、あまりに不良債権が膨大なため、なかなか処理が進みませんでした。最終的には、政府が数度の銀行への公的資金注入による不良債権処理を加速したことによって、ようやく2000年代になって不良債権処理問題が解決したわけです。

この、不良債権処理の最終的解決を投資家たちに認識させたのが、2003年に実施されたりそな銀行への公的資金注入です。これを見て、投資家たちは日本の不良債権処理問題は一気に解決すると判断し、日経平均株価は2003年の7000円台から、2005年には15000円台へと倍増していったのでした。
ふたつめの例としては、国際金融機関の支援や通貨切り下げによって金融危機を解決したケースを挙げています。具体例としては、1990年代のアジア通貨危機です。これは、タイやインドネシア、韓国などのアジア諸国が次々と通貨下落に見舞われ、輸入物価が大幅に上昇しました。その結果、アジア諸国の景気は悪化し、アメリカドル建てで借金をしていたアジア諸国の民間企業の倒産が続発する事態となったのです。

このときの解決策として実施されたのが、IMFによる支援です。IMFから金融支援を受け、さらに経済政策面でIMFの管理下に置かれて緊縮財政を実施した結果、アジア諸国は危機を脱したのでした。このときも、日経平均株価は1998年に12000円台まで下落していきましたが、その後反転し、1999年には19000円台まで上昇したのでした。
他にも、この本では中央銀行による大規模な資金供給によって金融危機が解決したケースや、金融政策の世界的枠組みを変更したケース、相場の自律反転といった事例を挙げて、金融危機発生後にどのような要因によって株式市場が反転上昇していったのかを述べています。


過去の金融危機の実例から投資のチャンスを学べる

この本を読んで、役に立ったことは、金融危機の発生こそが投資のチャンスなのだと実感させられた点にあります。私は個人的に株式投資や債券投資、FX取引をおこなっていますが、2008年に発生したリーマンショックや、2012年に発生したギリシャ危機における株価下落局面においては投資家による投げ売り状態が継続したため恐怖感を感じてしまい、私も損切りを余儀なくされました。そして、それだけでなく、株式相場が反転上昇したときには買いポジションを持つことなく、株価が上昇していく様子をただ指をくわえて見ているだけだったのでした。

ところが、この本を読んだことにより、金融危機が発生したときには、たいていの投資家が株式の投げ売りを行いますが、一方では必ず政府や中央銀行が政策発動を行うことによって金融危機は収束に向かい、株式市場は反転上昇へ向かうことを学ぶことができたのです。

実例としては、1929年に発生したアメリカ発の世界大恐慌においては、アメリカ政府など各国政府が巨額の財政出動を行い、大規模な公共工事を実行したことと、大幅な低金利政策と資金供給を行ったことにより、景気は底入れしたのでした。つまり、金融危機が深刻な危機的状況となればなるほど、政府は必ず大規模な政策発動を実施することを学んだのです。このため、今後、世界各国で金融危機が発生し、株価暴落が発生した場合には早めに株式の損切りをして、じっと政府の政策発動を待つことができると思います。
また、この本を読んだことにより、いま現在発生しているトルコ危機やアルゼンチン危機についても冷静に対応できています。

現状、トルコの通貨リラは大幅に下落トレンドを継続しており、トルコの輸入物価は急上昇しています。そして、トルコは通貨安を食い止めるための金利引き上げを実施しています。ところが、まだトルコ経済の危機が去ったとはいえない状況となっています。

私は、数ヶ月以内にトルコリラやトルコ株式市場は底値をつけると予想していますが、いまは買い注文を出さずに、じっと我慢できています。おそらく、EU諸国、とりわけEUの盟主であるドイツや、トルコの親密国であるロシアが、トルコへの経済支援策を打ち出すと考えられるためです。つまり、とくに経済大国であるドイツがトルコ支援を表明したときが、トルコリラやトルコ債券について大量の買い注文を出すタイミングだと考えられるようになったのです。以前の自分であれば、このような冷静な判断力は持てなかったと思います。

また、現在のアルゼンチン危機についても同様です。現在、アルゼンチンの政策金利は60%という異例の高水準となっていますが、まだ通貨安が続いており、アルゼンチン危機が収束したとはいえない状況です。おそらく、アルゼンチンの場合は国債の一部デフォルトを宣言し、再びIMFなどの国際機関の支援を仰ぐことになると思います。あるいは大国ブラジルへの牽制の意図を含めて、アメリカが支援を表明するかもしれません。いまの私は、IMFやアメリカが支援に乗り出したときが、アルゼンチン国債を購入するタイミングだと判断できるようになったのです。
過去の金融危機の実例を学ぶことができたからこそ、いま冷静な対応ができているのです。

投資に関わる人は必読

この本は、投資に携わる人々にはお勧めしたいと思います。とくに、初心者の個人投資家へは強くお勧めできる本だと思います。この本を読むと、金融や経済面においても歴史は繰り返すことを学ぶことができます。そして、金融危機が発生した場合には、壊滅的状況に陥ることを防ぐために、必ず政府が大規模な財政出動を行ったり、中央銀行が低金利政策や大規模な資金供給を実施することを学ぶことができます。また、アルゼンチンのような新興国が金融危機に陥った場合には、経済大国や国際機関が経済支援を行うことを学ぶことができます。
つまり、金融危機が発生すると投資家は株式を投げ売りしますが、永遠にすべての株主が株式を売り尽くす状況には至らないのです。必ず、なんらかの形で打開策が打ち出されます。そして、打開策が打ち出された時点から、株式市場は反転し、一転して上昇トレンドを描くことになるのです。

 

このため、とくに初心者の個人投資家の方には、ぜひこの本を読んで過去の事例を学んでいただき、今後仮に日本国内で金融危機が発生した場合には、冷静沈着な態度を失うことなく状況の推移を見つめ続け、政府が大規模な財政出動を行い、日本銀行が大規模な金融緩和策を発動したときに果敢に株式購入の決断をくだせる投資家になっていただきたいと思います。
また、財務省の官僚の方たちにも、ぜひこの本を読んでいただきたいと思います。財務省の官僚の方たちの多くが法学部出身者ですから、実は金融や経済の歴史を大学で学んでいらっしゃらないと思います。このため、財務省の官僚の方たちは、いつでも消費増税を主張し、緊縮財政を志向してしまうのだと思います。
しかし、景気が良くないときに消費増税を実施してしまっては、そのことによって金融危機が発生し、税収は減ってしまうのです。ぜひ、この本を読んでいただき、金融や財政の歴史を学んでいただきたいと思います。

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