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誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たちスティーヴン・ウィット

00年代に入るまでCD産業は右肩上がりで急成長を続け、ミリオンヒットが当たり前のように出ていた時代を覚えている人も多いことでしょう。
ところが、10年代も終わりに差し掛かった今現在、ミリオンヒットのCDは絶滅危惧種になってしまっています。
YouTube、iTunes、Spotify、数々の新しいテクノロジーの登場にCDを始めとする音楽産業の衰退の原因を指摘する声もあります。

確かにこれらのサービスはCDを王者の座から追いやりましたが、それ以前に音楽産業にダメージを与え、体力を着実に削り続けていた存在があります。
そう、海賊版サイトによる違法ダウンロードです。

 

本書は、90年代以降の音楽シーンの動向を振り返りながら、いかにして海賊版サイトが巨大産業を破壊していったのかを明瞭に描き出します。

 著者はフリーで活動するジャーナリストのスティーヴン・ウィット。
彼自身も学生時代に海賊版サイトに入れ込んだ過去を明かしており、無料で手に入れられる違法な音楽はどこからきたのかと疑問を抱いたことが、本書誕生のきっかけになったとか。
ジャーナリストらしく事実を事細かく追いつつも、登場人物のキャラクター性を立たせ、なおかつ臨場感あふれる筆さばきでエンターテイメントとしても上質な出来に仕上げています。
本書の中心となる登場人物は3名。
言わば音楽産業に大打撃をもたらした容疑者とも言い換えられます。
容疑者その1 海賊版サイトで使われていた画期的技術「mp3」を開発した技術者 ブランデンブルク
容疑者その2 発売前のCDをネットにリークしまくったCD工場に長年勤務する労働者 グローバー
容疑者その3 音楽産業を牛耳っていた業界の超大物CEO ダグ・モリス
この三名の視点を頻繁に入れ替えながら、当時の音楽産業と海賊版サイトの仁義なき戦いを振り返っていきます。
そこに加えて、アップルのiPodやショーン・パーカーのナップスター、世界的に有名なアーティストたちの動向も絡み事態はますます混迷していきます。
気が付いた時には当事者たちの手を大きく離れ、音楽のフリー化という現象を誰も止められなくなっていました。

CD殺人事件という題名に変え、ミステリー作品として発表しても通用するのではないかと思うほどスリリングな展開の連続。
非常に読み応えがあり、作者の物書きとしての才能がいかんなく発揮されています。
ネタばれを覚悟で言えば、実は明確な犯人は最後まで登場しないのです。
技術革新に倫理や法律が追い付かず、技術に使われるようになってしまった人間の姿だけが印象的です。

その中には、海賊版サイトを熱狂的に支持した消費者も含まれます。
この本に描かれる音楽産業の結末からは、技術と倫理の関係性、業者側のエゴと消費者のエゴなど、ビジネスが直面する様々な課題を考えさせられることになります。"


テクノロジーは使う人間の善悪に左右される

まず印象に残ったポイントは、テクノロジーの進歩自体は良いことであるが、それを使う人間によって善悪が左右されるという点です。
mp3 を送り出した技術者たちは、高い音質を保ちつつも音楽の圧縮を向上させる技術開発に純粋に取り組みました。

ところが、規格競争に敗れ忘れ去られたはずのmp3 は、開発者たちも知らないうちに違法ダウンロードの根幹を支えることに転用されていました。
ノーベルのダイナマイト、フォン・ブラウンのロケット、これまでも最先端の技術が悪用されることで、致命的な結果をもたらしたことは枚挙にいとまがありません。

技術とは時に開発者の意図を離れ、思わぬ結果を生んでしまうことがあります。
新しい技術との付き合い方を考えるという上で、非常に興味深い内容が取り上げられていると感じました。
コンテンツ産業の保護ということについても教訓となる内容が含まれています。
現在、日本は政府をあげてクールジャパンキャンペーンを行い、コンテンツ産業の輸出に力を注いでいます。

そこで問題となるのが、海外の海賊版や違法コピー製品への対応です。
TPPの協議の中で、国を越えてコンテンツ産業を保護するための方策が大きく取り上げられたことは記憶に新しいところ。
CDのリークに暗躍したグローバーが所属していたラビット・ニューロシス(RNS)は、国際的なネットワークを持ったシステムでした。
グローバーのような実際にCDを盗み出しネットにアップするもの、システムの保守点検を担当するもの、どのCDをリークするか決める上層部。
このように、組織は複雑な分業制の上に成り立っており、その構成員は国境を越えてのつながりを持っていました。

最終的にメンバーは大きな代償を支払い、RNSは姿を消すことになりますが、似たような組織は雨後のタケノコのごとく現れ続けています。
今後、国際的ネットワークを持つ違法組織と各国政府及び企業との対立が先鋭化していくことは間違いありません。
将来を見通す上で抑えておきたい話題です。

そして、音楽産業から見る消費スタイルの変化も見逃せないところ。
著者は音楽産業にも手厳しい批判を加えます。
技術進歩でCDの量産が可能になっているのにCD価格は長年据え置かれていた。
アーティストの作りたいものより市場にウケるものを優先させた結果、質が引くくブームが去ると中古屋で投げ売りされるようなアルバムが大量発生した。
00年代初頭まで一見順調に利益を拡大していた音楽産業ですが、その裏で消費者は大きな不満を募らせ、海賊版サイトに雪崩を打ったように走る下地できていたのです。
CDの売り上げが低迷する一方、それに反比例するようにライブやフェスの動員は増え続けていると著者は指摘します。

モノ中心の消費からコト消費への転換がそこには見て取れます。
誰もが知るヒット曲は見かけなくなりましたが、古い楽曲やインディーズのアーティストにも脚光があたり、ロングテール現象が見受けられるようになっています。
この本の舞台は米国なのですが、日本でも実情はほぼ同じでしょう。
消費スタイルの変化を掴み切れずに沈んだ大企業。
音楽業界から見える構図は、経営者にとっては非常にシビアな問題を突きつけます。


コンテンツ産業に従事している人は必読

コンテンツ産業に従事している方には必読の書だと思います。
最近、日本でも違法漫画サイトが話題となり、国が直々に対応する事態に発展しました。
違法サイトにどのように対処するかという問題を考える上で非常に有益な知見をもたらしてくれる作品です。
違法サイトに関係したものへの厳罰化が叫ばれますが、それではいたちごっこに陥るだけという事実が本書で明らかにされています。
そこで、本書に登場するダグ・モリスの打った一手は注目に値します。
モリスはYouTube上に動画を上げるのを認める代わりに、動画についた広告収入の大半を自分たちが手に取るように仕向けました。
VEVOというミュージックビデオを提供する動画サイトを立ち上げ、動画に付いた広告の収入にから数億ドルの利益を上げることに成功。
海賊たちに一矢報いて留飲を下げました。

法規制も大事ですが、それだけでは違法サイトに対抗することは困難です。
消費者の動向を見極め、コンテンツを利用して新しく収入を得るサービス作りを考え出す必要があるでしょう。
一時期隆盛を誇ったグローバーらのRNSですが、新しい技術の進歩により競争力を失い、あっという間に解散してしまいました。
技術の悪用に対抗するには、技術の応用化か新しい技術の開発しかないという事実を読み取ることができます。

また、技術者の方にも本書を是非読んでもらいたい。
再三触れたように、技術者の想像を超えて技術が悪用されてしまうことがあります。
技術に使われる人間が増加しているという耳が痛い指摘も聞こえてきます。
一度立ち止まって、技術が社会や人間に与える影響を再考する必要があると私は考えます。
勿論簡単に答えは見いだせませんが、何度も議論を重ねることで得られた知見を開発にフィードバックし、人々に愛される技術が生まれることを期待したいと思います。

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誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち (ハヤカワ文庫 NF)

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