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ビジネス関連書籍の紹介日記です

ヤンキーの虎 藤野英人

地方経済を動かす経営者と企業に焦点を当てた本になります。
人口減少や少子高齢化といったビジネスに不利な環境を背負っているにもかかわらず、地道に業績を上げ続けるている企業とその経営者を分析。
疲弊が叫ばれる地方においてどのようなビジネスモデルを確立してきたかをわかりやすく解説していきます。

地方出身者は「いるいるこんな経営者、あるあるあんな企業」と膝を打ちながら読めます。生まれも育ちも都会という読者にとっては、都会とは違った独自システムをもつ地方経済について学べる一冊です。

著者は著名な投資家である藤野英人氏。
投資企業、レオス・キャピタルワークス株式会社の創業者の一人であり、現在は同社の代表取締役社長と最高投資責任者を務めています。
投資関係の著作も数多くあり、そちらの方面では有名人ですが、地方経済に焦点を当てたこの本のような切り口は従来のイメージをいい意味で裏切ってくれました。
著者によると、この本の誕生のきっかけとなったのは、原田曜平氏の「ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体」を読んだことだそうです。
原田氏の同書は、マイルドヤンキーなる用語を生み出したことでも知られるベストセラー。
マイルドヤンキーとは、仲間や家族との絆を何よりも大切にし、地元への愛着が強く、消費や労働を地元で完結させる若者たちのことを指します。
原田氏は、地方ではマイルドヤンキー的思考・行動パターンをもった若者が増えていると指摘。
彼らが地方経済を動かす原動力になっていると分析しました。
藤野氏も原田氏の同書を興味深く読んだそうで、そこで一つの疑問を抱いたそうです。
そのマイルドヤンキーたちを束ねている親玉とも呼べる存在がいるのではないかと。
長年投資家を務めてきた藤野氏は、以前より付き合いのある地方企業の経営者の知り合いたちの顔が頭に浮かんできたそうです。
そう、まさに彼らこそがマイルドヤンキー束ね、事業を起こし、地方に雇用と消費の場を作り出してきた真の経済の中心と呼ぶべき存在であると。
本書の中では、そのような地方の経営者達のことを畏敬の念を込めてヤンキーの虎と呼びます。
ヤンキーの虎という発想を得た藤野氏は、改めて付き合いのある経営者たちを取材。
そうした中で地方で事業を成功させるための共通項を見つけ出し、その成果として本書が生まれたということです。
投資家として数々の実績を残してきただけあり、藤野氏の分析は説得力抜群。
数ある事例の中から成功企業のエッセンスを明確に取り出し提示するあたり、鋭い着眼点の持ち主だと思いました。また、著作家としての実力もいかんなく発揮。
平易で読みやすい文章とわかりやすい解説。地方経済に知識がない都会のビジネスマンでも楽々読めてしまう仕上がりです。

地方で成功している経営者たちの特徴がわかる


本書の核となるのは、地方で成功している経営者たちの特徴を解説した部分です。
まず指摘している経営者の共通点とは、リスクを恐れず行動するという特徴です。
商店街にいた旧来の経営者は保守的な経営を続け、地方の消費者からいつしかそっぽを向かれていました。
90年代も終わりに差し掛かるとそんな旧来型の経営者は軒並み高齢化、加えて後継者不足の問題も発生し、地方における消費の場が揺らぎ始めます。
そんな状況をビジネスチャンスと捉え進出してきたのが、ヤンキーの虎たちです。
彼らはアンテナが高く地方にいながら都会の流行にも敏感、思い立ったら即断即決で次々に事業を起こしました。
競争相手が衰退していたという環境にも恵まれ、リスクを取る決断をした虎たちが次々成功を収めることになったそうです。
地方では都会で流行ったものが時間差で流行する「ミニタイムマシンビジネス」が成立するという指摘も納得。
都会の流行りをいち早く地方に持ち込むことが成功のカギとなるので、都会にある携帯の販売会社、あるいは外食やコンビニのFC経営から成り上がる人が多いという解説は明確でためになりました。成功のカギは行動力となんでも取り入れる柔軟性という分析はシンプルですが、それゆえに力強く万人が学べる教訓です。

本書はさらに分析を進めていきます。
次なるキーワードは、コングロマリット化。

虎たちは、一つの事業の成功を皮切りに次々と多様なビジネス展開し、どんどん地元で勢力を拡大していく傾向があるそうです。事業内容は、パチンコのようなレジャー産業から太陽光発電、さらには介護職までと多岐に渡っています。このような幅広い事業展開を支えている裏には、地域密着ならではの顧客情報の独占という最大の武器が存在しています。経営者、従業員、消費者、役所の人間など顔見知りだらけと言える地方ならではの狭い世界の特徴をフルに活用。関連企業で顧客の情報を共有することで、地域のニーズを素早く抑え、地域の実情に即したサービスの供給を実現。
すると、さらに顧客が引き付けられ消費を拡大すると同時に情報を提供。得た情報は次のサービス展開や事業の改善に活用。このような正のサイクルによって虎たちの勢力が日々拡大していくのです。一見複雑な事業展開を簡潔な分析でまとめた著者の力量には、お見事というほかありません。
ここまで順調に成長を続けてきたヤンキーの虎たちですが、今後待ち受けるであろう試練についても指摘しています。2020年を過ぎる頃になると、地方の人口減少はますます本格化。数年前に話題になったように、存続自体が危ぶまれる自治体も増えてきます。
すると、これまで共存していた虎同士の縄張りが被ることに。生き残りをかけた激しい戦いが行われることまでを著者は予想しています。現状の分析に留まらず、将来の予想までしてくれるとはありがたい(笑)地方でのビジネスに関わる全ての人にとって、本書は教科書的な存在になるのではないでしょうか。

地方でビジネスをしている人におすすめ


地方でビジネスに関わる人にとっては、絶対に抑えておきたい一冊になります。
これから地元で一旗揚げようというネクストヤンキーの虎にとっては、成功事例とそのエッセンスが満載でためになることこの上なし。
事業展開を実践していく中で、右腕のように働いてくれる一冊になる可能性を秘めています。
就職活動を控えている学生にとっては、視野を広げる点で大いに役立ちます。
どうしても知名度の高い大企業や、東京にある大手企業に就職活動は偏りがち。
地方にも野心と行動力をもった面白い経営者がいることを知れる本書は、就活生の偏見を正すには持ってこい。
地元で就活を考えている学生にとっては、ヤンキーの虎たちが経営する企業は業績安定で狙い目の優良企業といえる存在。
本書を読み経営者の頭の中をのぞくことで、周囲のライバルたちから一歩も二歩も前を行けるでしょう。
地方・国家問わず公務員の人たちにも読んでもらいたいですね。
地域経済、場合によっては地域の政治をも仕切る力をもっている虎たち。
地域政策を立案・実行する上で、彼らの協力は欠かせません。
ところが、良くも悪くも独立心旺盛な虎たちにしてみれば、お上の言うことに唯々諾々と従う気など全くありません。
彼らのとの付き合い方に失敗し、折角の政策がおしゃんになってしまったら堪りません。
本書を活用して虎たちの思考や行動パターンを学び、上手に付き合っていくための指針にするとよいでしょう。
さて、魅力が満載の本書ですが、ここで取り上げられる経営者は都会のモノを地方に持ち込むことに長けた人たちです。
地方から全く新しいビジネスモデルを展開する経営者及び企業が取り上げられないのは、少し残念です。

そこで、藻谷浩介氏の有名な著作である「里山資本主義」も一読することをおすすめします。そちらの方は地方発ビジネスの斬新な先進事例が満載なので、本書とはまた違った地方経済の姿を知ることが出来るでしょう。

 

togetter.com

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