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ビジネス関連書籍の紹介日記です

ゲーム産業の経済分析 ―コンテンツ産業発展の構造と戦略 新宅純二郎・田中辰雄・柳川範之(編)

この本は2003年に出版された本で、ビデオゲーム産業について、経済学や経営学の観点から執筆されています。執筆者としては、編者でもある新宅純二郎氏、田中辰雄氏、柳川範之氏の3氏のほかに、和田剛明氏、生稲史彦氏、立本博文氏、魏昌玄氏が名を連ねています。
そして、この本ではゲーム産業のビジネスモデルの変遷や、ゲーム産業におけるイノベーションの構造、大企業へ資本や人材が集中する理由について書かれています。また、ゲームを発売すると売上高が発売初期に集中する傾向があることや、ゲーム産業に参入する企業像についても述べられています。

まず、ビジネスモデルの変遷においては、ゲーム産業の実態について述べられています。そして、日本におけるゲーム産業の発展のきっかけとして、8ビット・ROMカートリッジ形式で発売された任天堂の「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」を挙げることができると述べています。ファミコンの成功要因としては、本体価格に対して画像や操作性が優れていたことや、任天堂が開発したゲームソフトに魅力的なものが多かったことを挙げています。さらに、他社からのゲームソフト供給を可能にするオープン化戦略をとったことも挙げられるとしています。
任天堂は1984年以降、契約を締結した他のソフトメーカーに対して自社のハード機に関する技術を公開し、これによって他社からのゲームソフト供給を可能とし、一気にゲーム市場における任天堂の市場シェアが高まったと指摘しています。典型的な、任天堂のビジネスモデルの成功事例です。
また、この本では企業による戦略の違いについても指摘しています。任天堂の場合は、ソフトウェアメーカーの選別について、ソフト全体の品質維持を重視してきたと述べています。このため、年間に販売するゲームソフトを減らし、量よりも質を重視してきたと指摘しています。

一方、ソニーグループのSCEは、市場メカニズムを通じてゲームソフトの淘汰を行うビジネスモデルを採用してきたと指摘しています。つまり、多くのゲームソフトを販売し、売れるか否かは顧客に任せたのです。
また、ゲーム産業におけるイノベーションの構造についても、この本では述べられています。とくにゲーム業界の特徴として、ハードウェア(ゲーム機)を生産する企業と、ソフトウェア(ゲームソフト)を生産する企業との間に相互依存性が低い点を指摘しています。このため、ソフトウェアメーカーの独立性が高く、自由意思に基づいてゲームを開発できていると述べています。"

ゲーム業界のビジネス慣行や売上の伸びなどがわかる

私は投資会社で資産運用の仕事をしているため、ゲーム関連銘柄の発掘にも日々努めています。このため、この本が出版された時点ではソーシャルゲームは登場していませんが、ゲーム業界のビジネス慣行や、どの時期に大きく売上高が伸びていくのかなどを知ることができました。
とくに現在でもゲーム業界の巨人としての地位を保っている任天堂のビジネス競争力の秘密を知り得たと思っています。ゲーム業界は、常に新規参入企業が多く存在します。しかし、それでも任天堂は常にヒット作を出しつづけ、好業績を維持しています。
この本を読み、その理由を知ることができました。ひとつは、ゲーム産業においては製造コストは存在せず、開発コストがコストの大半となる点を挙げることができます。私は、
任天堂などのゲーム企業は、ひとつひとつの新作ゲームを開発するたびに、新しいソースコードを書いていたのかと考えていました。ところがこの本を読み、大企業ほど蓄積されたソースコードの一部を新作ゲームソフトに活用していることを知りました。プログラミング技術には蓄積効果があることを初めて知りました。
また、プログラミングには個人の職人芸的な要素があり、天才的なプログラマーを長期間にわたって、数名抱えているだけでも、年々ゲーム技術の水準が上昇していき、ユーザーから支持されることを知ったのです。任天堂の強みは、この部分にあると確信できました。
このため、ソーシャルゲームが活況な現代社会においても、新規参入企業が必ずしも成功しない理由を理解することができたのです。そして、なぜ任天堂がポケモンGOといった優れたゲームを世に出すことができたのかを理解できたのです。
また、この本を読み、ゲーム業界の売上パターンを知ることができました。それは発売初期に売上高が集中する傾向があるという点です。かつての「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」といった実例にあるように、発売後の非常に短い期間に総売上高の大半が発生するのです。具体的には、売上高のピークは発売開始から2週間ということを過去のゲーム販売事例を見て知ることができました。
これは、現在のソーシャルゲームの販売でも同様といえます。このため、私はゲーム会社に投資を実行するにあたっては、ゲーム新作が発売されてから最初の1週間の販売動向を欠かさずチェックして、売れ行きがダントツに優れているゲームソフトを発見できた場合には、そのゲームをリリースした会社の株式への投資を実行できるようになったのでした。
過去5年の具体例としては、任天堂、ミクシィやコロプラで、私は大変優れた運用成績を残すことができたのです。


ソーシャルゲーム産業に新規参入しようと考えている企業経営者におすすめ

この本は、これからソーシャルゲーム産業に新規参入しようと考えている企業経営者におすすめできる本だと思います。ソーシャルゲームは、昔のファミコンとは異なり、スマートフォンなどにダウンロードすればゲームを楽しむことができます。このためハードウェアが必要であった時代よりも、ゲーム業界はさらに参入障壁が低くなっています。
しかし、ソーシャルゲームを発売すれば必ずヒットするわけではありません。ユーザーにとって、楽しめるゲームでなければ売上高を計上することはできません。そして、売上高を計上できなかったゲームについては、企業側は開発費について特別損失を計上しなければなりません。そのため、安易な考えでソーシャルゲーム業界に参入することは危険なのです。
ソーシャルゲームで成功するには、成功するためのビジネスモデルや効果的な開発プロセスを知っておく必要がああります。具体的には、ゲームソフトの開発構造における典型的な成功企業のパターンというものが、この本には記載されてあります。それによると、開発ノウハウはできるだけ、社内に蓄積していくことが望ましいとされています。近年、ソーシャルゲーム開発に新規参入した企業の中には、ゲーム開発を外部の企業に丸投げしているケースもありますが、それは失敗する確率が高いとしています。
このため、ゲームビジネスで成功するポイントは、いかにして優秀なゲームプログラマーを社内に取り込むことができるかであるかということを知ることができると思います。ぜひ、ゲーム産業への参入を検討している経営者へはおすすめできる本です。

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ゲーム産業の経済分析―コンテンツ産業発展の構造と戦略

ゲーム産業の経済分析―コンテンツ産業発展の構造と戦略