ビジネス書籍ユーザーレビュー

ビジネス関連書籍の紹介日記です

ソロスの錬金術 ジョージ・ソロス

この本は、1996年に大物投資家であるジョージ・ソロス氏が総合法令出版から発売したものです。日本で出版された時期は1996年ですが、執筆した時期は1980年代となっています。

主な内容は、前半が株式市場や為替市場、さらに世界経済の信用と統制のサイクルについて自身の見解を述べるものとなっているほかに、1980年代に発生した国際債務問題についての見解も述べられています。

そして後半は、1985年8月から1986年11月まで実際にソロスが行ったトレードについて、説明がなされています。どのような理由で為替ポジションや債券ポジションを持ったのかや、当時の日本株についての認識など赤裸々につづられています。

この本の執筆時期は、現在から約30年前となりますが、世界経済や金融市場の動向を認識するうえでは、現在においても有効と思われる見解が多く記載されている点が、この本の大きな特徴です。

とくに「第4章・信用統制サイクル」においては、現在の景気分析についても有効と思われる見解を述べています。ソロスは、好景気は長い期間持続し、徐々に加速していくと述べ、一方、景気後退は突如として発生し、しばしば壊滅的な打撃をもたらすと述べています。そして、好景気と景気後退の非対称性については、金融機関から民間企業への融資と担保の間の関係が生じるものだと述べています。ソロスは、融資という行為は担保の価値に影響すると指摘しているのです。

具体的には、強い経済は、信用度を決めるうえで重要な資産価値や所得を増加させる傾向があると述べています。そして、景気拡大の初期段階では、金融機関から民間企業への融資総額が低いために、不動産などの担保価値に対する影響は無視できると指摘しています。しかし景気が拡大し、金融機関から民間企業への融資残高が増加してくると、債務全体の規模が重みを増し、担保価値に影響を与えるとソロスは指摘しています。

ソロスは、景気拡大と担保価値が増大していくプロセスが終了する時期は、新規融資によって民間企業が投資をしても景気を刺激することができなくなった時期であると述べています。そのときが、景気拡大の頂点の時期であり、その後、金融機関による民間企業への新規融資が減少し始めると、不動産などの担保価値が下がり始めると述べています。
担保価値が減少すると、金融機関は民間企業に対して融資の引き上げを要請したり、担保の追加差し入れを要請するため、一気に景気後退が加速し、一気に担保価値が圧縮されてしまうため、経済は壊滅的な打撃を被ると指摘しています。"


アメリカ経済についての現状分析ができる

私は投資会社で資産運用の仕事をしているため、現在の2018年前半の時点での世界経済や日本経済を分析するにあたっては、この本はおおいに役立っています。

具体的には、世界経済の25%を占めるアメリカ経済についての現状分析です。アメリカでは、2009年から大規模な金融緩和を実施し、不動産や株式などの資産価格を上昇させることによって景気拡大を実現させました。しかし、現在のアメリカはすでに金融緩和政策を取りやめ、利上げ政策を粛々と実行に移しています。現在もアメリカの不動産価格や株式などの資産価格は上昇していますが、すでに景気拡大期に入って9年が経過しているため、いつ資産価格が下落に向かっても不思議ではないと分析することができています。
このため、私が担当しているファンドからは、アメリカ株式の組み入れ比率を引き下げる決断をすることができています。

また、日本においては2013年から大規模な金融緩和政策が採用され、アメリカ同様に日本においても不動産や株式といった不動産価格が上昇し続けています。しかし、日本の不動産の場合は上昇している地域が、東京都心や大阪の中心部など一部に限定されており、しかも2018年6月時点では不動産価格が天井を打っているのではないかとの認識が、不動産会社の社員たちの間で強まっています。このため私は、民間企業が金融機関に担保として差し入れている不動産の価値が、いつ急速に下落しても不思議ではないと分析しています。
また、この本を読んだおかげで、私が、現在日本の株式市場において注目できているのが、日本のマンションディベロッパー専業の企業の株価です。マンションディベロッパーは、購入する土地を担保に入れて金融機関から融資を受けています。そして、マンション建設と同時にモデルルームをオープンし販売活動を開始します。迅速に販売活動を完了し、マンション建設が完了したころには、金融機関から借りたお金を返済しているのです。

ところが、数年以内に東京都心部の不動産価格が下落すると、マンションディベロッパー専業の企業の業績は一気に悪化するはずです。購入した土地を担保に金融機関からお金を借りて、マンション建設を開始し、同時にマンション販売を開始しても、その頃には不景気となっており販売活動の進捗状況が悪化しているはずだからです。おまけに、土地の価格が大幅に下落するため、金融機関からは融資金の早期返済を督促される事態に陥ってしまいます。2008年のリーマンショックのときが、まさにこの状況でした。
このため、私はこの本を読んだことによって、私が担当しているファンドから日本の不動産企業の株式組み入れ比率を大幅に引き下げ、さらには空売りのタイミングを虎視眈々と狙うことができているのです。"


政治家や起業経営者だけなくサラリーマンにもおすすめ

この本は、政治家や企業経営者、さらに一般のサラリーマンに至るまで、幅広い人々にお勧めしたいと思います。
政治家に対しては、この本を読むことによって、景気は緩やかに拡大していくが、景気後退はまさに短期間に発生し、資産価値は短期間で大幅に減少するのだということを勉強してほしいと思います。そして、けっしてリーマンショックの現象は100年に一度発生する稀な現象ではないことを認識し、経済政策を立案してほしいと思います。

また、企業経営者に対しては、この本を読むことによって、つねに景気後退局面に陥ったときに自社が生き残ることができるか否かを念頭に置きつつ、会社の経営をおこなってほしいと思います。景気拡大局面が数年続くと、経営者によっては永遠に景気は拡大していくものと勘違いしてしまい、過大な借金をせおって過大な設備投資や企業買収をおこなうケースが見受けられます。ところが、このような企業は景気後退局面に陥ると、たいてい倒産の憂き目を味わうことになるのです。必ず周期的に景気後退局面がやってくるということを学んでいただきたいと思います。

そして、とくに投資が好きな一般のサラリーマンの方にも、この本を読むことによって、株価は永遠に右肩上がりとはならないことを学んでいただきたいと思います。現在のアベノミクス相場が始まって、すでに5年経過しています。また、東京都心の不動産価格はバブル期の価格水準に達しています。いつ景気後退局面がやってきて、株価の暴落局面がきても不思議ではないことを自覚することをお勧めしたいと思います。

 

book.user-re.com

www.panpanpapa.com

ソロスの錬金術

ソロスの錬金術

  • 作者: ジョージソロス,George Soros,ホーレイU.S.A.,Pacific Advisory & Consultant
  • 出版社/メーカー: 総合法令出版
  • 発売日: 1996/06
  • メディア: 単行本
  • 購入: 1人 クリック: 13回
  • この商品を含むブログ (6件) を見る