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東芝の悲劇 大鹿 靖明

「東芝の悲劇」は、かつて日本を代表する企業であった東芝が、いかにして凋落の道をたどっていったかを克明に記したビジネスドキュメント本です。
世の中を騒がせた東芝粉飾決算事件以来、東芝は坂道を転げ落ちるように低迷の一途を辿ります。

なぜ東芝ほどの大企業が失策を連発したのか、この本はその過程を明らかにしていきます。加えて、過去にさかのぼり歴代社長の業績・人格・人間関係にまで鋭く切り込み、不祥事を連発するに至った企業体質について言及していきます。

 作者の大鹿靖明氏は、朝日新聞の経済部に籍を置くジャーナリスト。
これまでも、ライブドア事件や福島原発事故についての優れたノンフィクション作品を発表しています。

「メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故」では、第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した一流のジャーナリストです。
今回も丹念な取材を積み重ねることで、東芝という企業の実態と体質を鮮やかに浮き彫りにしました。

作者は今作のプロローグにて、東芝の危機を招いた原因を以下のように記述しています。
「その凋落と崩壊は、ただただ、歴代トップに人材を得なかっただけであった。」
作者もたびたび触れていますが、東芝が技術開発力や製品競争力で後れ取ったわけではありません。
それは、半導体や医療関係の事業が高値で他の企業に売却された事実からも明らかです。
危機を招いた直接の原因は、粉飾決済という不正発覚を皮切りにそれまで隠されたいた赤字事業が白日のもとに晒され、市場からの評判を一気に失ったことにあります。
そして、不正やガバナンスの欠如を招いた元凶は、歴代のトップ達であるというのがこの本の主張になります。
その主張を裏付けるべく、第13代社長の西室泰三氏から19代社長綱川智氏までの実像に迫ります。

驚嘆すべきは、大鹿氏の圧倒的な取材力です。
歴代社長の子供時代のプロフィールから始まり、入社後の仕事ぶりや上司とのコネ、普段の私生活に至るまで詳細に書き記してあります。
そうすることで、彼らが社長在任時に事業計画や会社としてのビジョンをどのようにして採用したかを説得力を持って提示しています。

社内政治や派閥争いの様子も詳細に描かれ、ここは池井戸潤氏の小説ばりにスリリングで面白い展開。
ビジネス本ということを忘れ、純粋なエンターテイメントとしても楽しめます。
歴代のトップによる決断に迫ることで、東芝という組織がいかに運営されてきたのかがはっきりとわかります。
一見業績自体は順調に推移していた期間にも、大企業病とでもいうべき病巣がゆっくりと、しかし着実に進行していたのです。
この本を読めば、東芝の転落は不運ではなく必然だったと言わざる負えません。"


ガバナンスの欠如がら崩壊してしまう組織の問題点を学べる

「歴代トップに人材を得なかった」と痛烈な批判から始まる本書ですが、歴代社長たちを一方的に中傷する内容ではありません。
彼らは超一流大学を卒業し、入社後も素晴らしい業績を残してきたこともきっちりと明記されています。
ではそんな彼らがなぜ道を誤ったのか、その答えは権力闘争、自己保身、名誉欲といったものに捉われてしまったからです。
東芝という会社自体名門意識は強く、OBたちは経団連を始めとする財界活動でも大きな影響力を行使してきました。

そのような歴史の中で、東芝のトップたちは会社の利益よりも自己の栄達に力を注ぐことが常態化していたことを著者は指摘しています。
社長やOBといった一部のトップに権限が集中し、監査役もいなかったため彼らの暴走を止めることができず、部下による忖度が続発していたことが明かされます。
トップにいる人々の利益確保が優先され、現場の状況を無視した業務命令がまかり通った結果があの粉飾決算だったと言えます。
東芝が抱えていた問題点とは、所謂「コーポレート・ガバナンスの欠如」でした。

そして、ガバナンスの欠如は東芝だけの問題ではありませんでした。
本書が執筆された後、神戸製鋼、日産自動車、スバルなど日本を代表する企業で続々と不正行為が行われてきたことが明るみに出ました。
これらの企業もまた、現場を無視したノルマや業績目標が掲げられ、その結果として不正が行われるという共通した構図を持っていました。
日本企業のコーポレート・ガバナンスに対する意識の低さが、一気に大問題として噴出したのです。
「東芝の悲劇」は、権力の集中と監視役の不在がいかなる問題を引き起こしたのかが詳細に記録されています。
日本企業が今直面しているガバナンスの欠如という問題を理解するうえで、これ以上役に立つ教科書はありません。

また、一時期もてはやされた「選択と集中」に関する弊害について触れられているのも興味深いところ。
選択と集中路線を継承した東芝は、意思決定の迅速化を掲げ社内カンパニー制を取り入れたり、リターンの大きい原発事業に注力する道を選びました。
結果として、この二つの取り組みが自らの首を絞めることになったのです。
社内カンパニー制により監視の目が届きにくくなったために、粉飾決算を見破ることができず、社員たちが気づいたときには取り返しのつかない事態に陥っていました。
国からお墨付きを貰い原発事業に進出したものの、福島原発事故で事業計画は事実上破綻。

原発事業に関するノウハウも不足する中、傘下のウェスティングハウスの不調を把握できず、損失を拡大し続け会社存亡の危機を招きました。
ここでも、ブレーキ役の不在が大きな影響を及ぼしています。
各部署ごとの営業情報を把握できていたら、原発事業のリスクの高さに警鐘を鳴らす人がいたなら、たらればになりますが東芝の運命も変わっていたでしょう。
組織の意思決定における事例を考えるうえで、本書に取り上げられたケースは非常に貴重な資料になるでしょう。

 

組織の意思決定を下す立場の方は一読の価値あり

本書が取り上げた東芝の事例は、豊富な示唆に富んでいるので、ビジネスパーソンは様々な教訓を引き出すことができるでしょう。
組織の意思決定を下す立場にいる人は、自戒をこめてこの本に目を通すべきです。
たった数人のトップが暴走したことによって、グループ全体で20万人近い雇用を抱えていた大企業が瀕死の状況に追い込まれました。
どの組織でも、明日は我が身ということになりかねません。
東芝の失敗事例を参考にすることで、自分たちの組織はちゃんとガバナンスが利いているか確認することができます。

これから組織のトップに立つという夢を抱いている若者にもおすすめです。
東芝の歴代社長たちは、非のつけどころのないくらい優秀な頭脳の持ち主でした。
ところが、そんな頭脳明晰な彼らですら大きな失敗を犯すことになりました。
本書の中で散々触れられる通り、失敗の原因は名誉欲に取りつかれ、権力闘争を繰り返した結果でした。
上昇志向は仕事を進めるうえでの起爆剤となりますが、行き過ぎると身を亡ぼす原因になります。
先人の失敗から学び、人の上に立つ将来に向けて他山の石としたいものです。

日本企業の抱えている問題点について知りたい人にとっては、これ以上の教材はありません。
コーポレート・ガバナンスや企業内部の透明性について、日本企業は大きく欧米諸国から後れを取っていると言われています。
東芝だけでなく、有名企業で相次いで不祥事が発覚したのは、日本企業がこうした分野で共通の課題を抱えているからです。
これからの日本企業を考えていくうえで、欠かせない一冊になりそうです。

この本は東芝の崩壊という題材を取りながら、日本社会の抱える課題と欲に対する人間の心の弱さをも暴き出します。
内容の濃さもさることながら、読み物としての面白さも損なわれていない非常に優れたビジネス本です。

hagex.hatenadiary.jp

東芝の悲劇 (幻冬舎単行本)

東芝の悲劇 (幻冬舎単行本)