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アメリカの資本主義 ジョンK.ガルブレイス

「経済学は理論でしかない。」「現実世界の経済に当てはめるには無理がありすぎる。」といった主張を元に、具体的な市場における事例が紹介された著書です。経済だけでなく「経済学」という学問も、時代に沿って発展・進歩しなければならないことが伺える内容です。

しかし裏を返せば、本著に書かれている事柄であっても、現代の価値観からすれば既に時代遅れとも受け取れる箇所があることに注意しなければいけません。

経済学において「自由主義経済学」の考えが主流だった1950年代半ば、当時の経済学に異を唱えたのが『アメリカの資本主義』の著者ジョン・K・ガルブレイスでした。

ガルブレイスの主張とは例えば「アメリカの資本主義を支配しているのは大企業である」「大企業は生産のための資源の配分を支配している」「更に、消費財の市場も実質的に支配している」という内容でした。

つまり、経済の循環は企業や消費者の自由な意思に基づくというのはタテマエに過ぎず、実際は大企業が取り仕切っているのが現状であり、消費者の流行や商品の売れ行き度合いすら大企業が作っている、という主張です。

ガルブレイスは、それまでの著書『ゆたかな社会』や『新しい産業国家』の著者として、日本の経済学界でも有名です。というのは、「経済社会には自由競争原理が働いている」という考えが主流だった1950年代にして既に、「資本主義は大企業が支配している」という大胆な説を実例と共に紹介し、世界の経済学界隈に大きなインパクトを与えたことで名前を知られていたからです。

インパクトがあったこともあって、ガルブレイスの主張は1950年代には異端とされたことも多々あったようです。しかし、現代社会においては当たり前と言えるでしょう。例えば旧来の主流派経済学が「合理的経済人」という人間像を前提としている一方、現実世界では大企業が一方的に大量生産をし派手なコマーシャルを繰り広げ流行を作って、必要もない商品を消費者たちへ売りつけています。これは、自動車や宝石類など高級品の市場でも、日々の食材を扱うスーパーマーケットにおける市場経済でもあてはまる現象です。

また、日本では最近になってようやく「働き方改革」などの言葉で労働者としての意識が注目されるようになってきましたとおり、労働組合や場合によっては政府までもが、被雇用者に無理な労働をさせないよう大企業に働きかける風潮が芽生えてきました。これはすでにガルブレイスが「拮抗力(カウンターベイリング・パワー)」と名付けて主張していた、大企業による支配へ抵抗しようとする力の表れだったと解釈できるのです。

経済学理論のみを鵜呑みにして経済学を理解してはいけない

「主流派(古典派)経済学はもう既に時代遅れである」という本著の一環した主張からは、2つのことが学べます。1つは「経済学理論をそのまま鵜呑みに理解してはいけない」こと。もう1つは「本著の内容すら時代遅れであるかもしれない」ことです。

1つ目の「経済学理論をそのまま鵜呑みに理解してはいけない」点について。主流派経済学は「合理的経済人」と呼ばれるモデルの人間像を前提として展開されています。合理的経済人とは、あらゆる情報を収集し、瞬時に損益や費用対効果を計算し、感情に左右されることもなく、自分の利益のためだけに、誤りを犯すことなく正しい判断を下す人間のことです。実際にそんな「個人」は存在しませんが、「人々」「消費者たち」「国民」など人々の体系(集団)は合理的であると想定することによって、経済学は数理モデル化しやすくし、また学問として体系化することができました。

しかし、現実離れしています。実際の人間は、不完全で断片的な情報をもとに判断し、決断まで日数がかかることもあり、理性より感情を優先させ、勘違いもし、評判を得るためにわざと相手に得をさせて自分は損をするといった結果となることも多いことでしょう。そこで現代において経済学では、現実の人間を前提として、合理的経済人のモデルで説明できない現象を類型化したいという要請に応える需要が高まってきました。その証拠のひとつに、2017年のノーベル経済学賞を受賞したのが、行動経済学の分野での研究でした。行動経済学は、理論ではなく現実に即した分野で、人間が陥りやすい失敗や弱さを数理モデルにあてはめ、現実を説明しやすい経済学とする可能性も期待されています。また、実社会で広告宣伝や政策への応用も行われています。

このような時代背景において、1950年代にして既に古い経済学に無理があると主張していたガルブレイスのモデルは、新しい経済学を体系化するための足がかりになり得るでしょう。

2つ目の「本著の内容すら時代遅れであるかもしれない」点について。「大企業が市場を支配している」という明快な説は、やがてアメリカ資本主義の全盛時代を表すものとして学会でも一般社会でも広く理解されるようになりました。しかし例えば20世紀の大企業体質を象徴する会社として知られるゼネラル・モーターズ(GM)は、2009年に倒産しました。大企業体制の危機を象徴する事件だったのです。すなわち、まさかあの大企業が破綻するわけがない、と思われた大企業までもが不安定となり得る現代、ガルブレイスの主張が「今も」正しいか否かは疑問が残ります。


経済学を実践できる知識として活かしたい方におすすめ

このような特徴から、『アメリカの資本主義』は、経済学を「学問ではなく実践知識として活かしたい」と考える人々に適した著書と言えると考えられます。
 例えば有名な例に、「800円と1000円の定食」の話があります。定食屋のメニューに「800円と1000円」の2種類があったとしましょう。これだと800円が注文されるこことの方が多いようです。しかしそこで「800円と1000円と1200円」の3種類があったとすると、一転して1000円が選ばれることが多くあります。この現象は実感として理解できると思われますが、実は主流派(古典派)経済学では説明のできない現象なのです。合理的で完璧な人間ならば他のメニューの値段を気にすることなく自分の好きなメニューを選びますが、実際には完璧な人間はおらず、経済学が想定しない結果を生むことになってしまうのです。
 

「経済学が想定しない結果を生む」最近の例と言えば、日銀のマイナス金利政策でしょう。金利を引き下げてインフレを誘発すれば、人々はお金を貯蓄ではなく投資や消費に回し、結果として経済成長につながる、というのが日銀の予想であり経済理論通りのシナリオでした。ところが現実にはそうはいきませんでした。人々は合理的ではなく、金利が下がったからといって即座にお金の使い方の意識が変わることもなく、むしろ「お金は銀行に預けない」という発想へ走りました。これは当然の心理なのでしょうが、政策がうまくいかなかった理由は経済理論では説明しづらいのです。
 人々は合理的ではなく、噂や怪しげなニュースを信用し、一見してわざと損をする行動に走ってしまいがち。この不合理な行動の根拠を学問として学ぶに当たり、経済学の移り変わりの知識として備えておくとよいでしょう。

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