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外資系金融の終わり―年収5000万円トレーダーの悩ましき日々 藤沢数希

著者の藤沢数希氏は外資系金融機関の社員で現在は金融工学を専門にした発言が多いようですが、「恋愛工学」なる冗談めかした分野でも積極的に発言をしています。

メールマガジンでも金融工学や仮想通貨分析なども行いながらそれと同時に低年齢層の受験勉強について独特な主張を持っていたり男女関係についての国際間での違いなどを大真面目に論じていたりと多才とも鬼才とも言える理系大学院を外国で卒業した元エリートビジネスマンです。

藤沢氏の興味対象は本当に多彩なようで、この著書の他には男女の恋愛関係や結婚観を数字だけで切り裂いて見るものや、原発政策に関するものなどもあり
著作のカバーを並べてみただけで藤沢氏のじっとしていられない人柄というのが伝わってきます。

さて本著「外資系金融の終わり」は、藤沢氏が一番元気のよかった現役トレーダー時代のものなので恐らくは彼を代表する作品だと思われます。
エリート集団が数百億、場合によっては数千億円という大金をかなりズボラに動かして超高額な報酬をもらい仮に失敗をしてもさほどの重圧を受けずに「最悪、会社を辞めればそれでよし」という世界なのだと描かれてゆきます。

一般的な日本人である我々から考えるとアメリカのエリート企業であるゴールドマンサックスやリーマンブラザーズは高いコンプライアンスと使命感の強いエリートに支えられている超優良企業であるという印象ですが藤沢氏に言わせると、日本の年行為序列のパワハラセクハラまかり通る企業となんら変わらないということのようです。
サブプライムローンがアメリカで大問題になったときのこともわかりやすく書いてあります。
日本という単一民族単一階級社会に住んでいる我々には想像もつかないような法で守られたエリートの汚職がありそれがバレてもまだ平然と莫大な報酬をもらい続ける金融機関の上級幹部に対する革命に近い様相も皮肉を交えながら描かれています。
破綻して世界中に不景気の影響を撒き散らしたリーマンブラザーズの社員たちが最も莫大な金額を設けていたというわたりはもはやSFの世界ですがアメリカの中で激しい競争に置かれているのは中流と下流の人たちだけで、エリートに属する人たちは社会に出たら初めから終わりまで「ぬるま湯」と言っていい貴族的存在のようです。著者である藤沢氏本人ももちろんその若くして数千万円の報酬を割りと安易に手にできる貴族社会の一員だったわけですが時がたつに連れて彼の視線は皮肉で辛辣な物になっていき、エリート投資会社の怠慢と権力闘争をサル山と呼ぶようにまでなります。

2010年を過ぎたあたりから多くの研究者の中では「実はアメリカは貧困な社会なのではないか」という命題が問題になって来ましたが
この藤沢数希氏もアメリカの数字だけの見せかけの経済成長には疑問を抱いているようです。


グローバルな金融会社や投資会社の組織や取引の実情を学べる

まずこの本は3つの要素から作られていて、グローバルな金融会社や投資会社の組織や歴史、そして金融や投資取引の実務などが描かれていて
それらを通して欧米の社会(主にアメリカ)の本質的部分に迫っています。

まず私がショックだったのは、アメリカの社会というのは大勢の貧困者を作り出した上でウォール街のエリートたちのきらびやかな生活が成り立っているという現実が生々しく伝わってきたことです。
第1章の初めの節からギリシャ政府とゴールドマンサックスによる「飛ばし行為」が淡々と述べられておりしかもその原型ははるか昔にバブル崩壊時代の日本の大企業の経営者が行った本業以外での赤字隠しの発展型だということで
昔も今もエリートは追い詰められると同じような知恵を発揮するものだと感心しました。
第2章からの藤沢氏の専門である金融工学の理論を使ってのサブプライムローンの構造の解説と、家の無い人が激増するなどアメリカ社会が受けた打撃、とさらにその後グローバルに進んだ不況の連鎖の描写は素晴らしいもので一般の日本人には少し理解しにくいと思われる「アメリカンドリーム」への身近な理解につながりました。
欧米の大企業が「20代の若者を高額報酬で引き抜き合うわけ」ということについては当然に日本の大企業においても同じような発想はあります。
つまりは若者の方が能力に比して相対的にベテランよりも安上がりに使えるということのようですがなぜ欧米の場合はエリートの若者にそこまで固執するかについてもサラっと看破してみせます。

第4章から始まる「サル山の名前は外資系投資銀行」を読むと、彼らの習性や投資行動のパターンが愉快なタッチでありありと描かれています。
エリートほど欲望にストレートに走っていく単純な輩が多く、その上の大ボス級になると欲が強いだけでなくケチだらけだと断言しています。

個人的にはこの第4章の「優秀なトレーダー」やウォーレンバフェットへの洞察が非常に興味深く負けているトレーダーはむしろ気前が良くて、バフェットのように上へ行くほどケチ度が上がって行くというのは私自身が毎日のように投機に関わっているものとして実感できます。

著者の藤沢氏は本人が外資系企業の投資部門でトレーダーをやっていただけあって、トレーダーの行動時間帯などについても詳しく書かれていて
読者が実際にデイトレーダーであるならば、一般のファンダメンタルズ分析やテクニカル分析とはちがって「タイミング売買」とでも言うべき点でも参考になります。
証券取引の場合は日本の投資家が直接に欧米の投資家と向き合う場面は少ないですが
商品取引やFX取引の場合は基本的には日本の深夜時間帯が主戦場になり毎日のように欧米のトレーダーとやり合うことになりますので
外資系トレーダーの曜日と時間帯による行動パターンを知ることは利益を出す可能性を高めてくれます。
第5章以降、藤沢氏の分析では欧米のエリート社会は日本のバブル崩壊と近い動きで崩壊に向かうという観測をしています。
日本のバブル崩壊とは少し違った経過を辿りましたが、2010年代後半のアメリカはトランプという異色の大統領の下で感情先行の行き先が不透明な政治手法を取っていますので波乱を予期していた著者の推測に近い結果を生みそうです。

 

意欲的に成長したいと思っている若いビジネスパーソンにおすすめ

藤沢数希氏のこの著書の主たる部分は、彼が現役の外資系企業の投資トレーダーだった時の経験から導き出されている叙述が大半ですので
意欲的に自分の組織での上昇活動を進めようと思っている若いビジネスマンの方や、これから外資系企業などに勤めて自分のスキルを発揮する機会を得たいと思っている学生さんにうってつけの一冊です。

また、企業での実務や外国人管理者の特徴などについて知ることもこれから伸びていく若い方々には重要なことだと思いますが藤沢氏が傑出して秀でている能力に、軽妙洒脱な理論的説明力があります。わかりやすい言葉で言えばプレゼンテーション能力ということになるのでしょうが難しいことを緩急をつけて軽く説明できるという力は、つねづね藤沢氏が理論物理学を使って恋愛を解説して見せるような遊び心の中にあって本著ではそれが最高に生かされています。そういう著者の作り方の努力もあってバイオレンス小説的な読み物としても楽しく読める本書ですがデイトレードやスキャルピングなど短期売買のトレードをする個人投資家にとっても有用な実用書になると思います。

日本にも外国にもトレーダー出身の著者による投資の解説書というのは多くありますが
大抵の場合は精神論に終始するものであったり(時によって精神論は投資手法の中で重要な位置を占めることもありますが)その反対に難解な数式が並ぶだけのものであったりもします。
そういう意味では我々のような一般投資家の数百倍から数万倍の他人のお金を動かしている人間たちについて赤裸々に書いてくれている本書は貴重です。
面食らうような逆説的な表現を多用する著者藤沢数希氏ですが、見出しなどから悪戯心は感じるものの嘘やハッタリは無いのでサービス精神が旺盛な方だと私は理解しています。

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外資系金融の終わり―年収5000万円トレーダーの悩ましき日々

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