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錬金術の終わり 貨幣、銀行、世界経済の未来マーヴィン・キング

この本は2017年5月に出版された本で、著者は2003年から2013年までイギリスの中央銀行であるイングランド銀行総裁を務めたマーヴィン・キング氏です。
マーヴィン・キング氏は、この本をとおして、長年中央銀行で勤務した経験に基づいて現行の銀行システムでは再び世界的な金融危機が発生すると警告しており、なぜ現行システムには不備があるのかという説明や、金融危機が発生することを防ぐための対応策を述べています。

 著者が、現行の金融システムに不備があると断定する根拠としては、金融危機が発生したさいに採用される中央銀行の対応策にあると述べています。イングランド銀行に限らす、アメリカのFRBも日本銀行も、不況が発生したり、金融危機が発生すると、金利を引き下げる政策を発動します。この金融刺激策の目的は、支出を将来から現在に前倒しさせるインセンティブを与えることで達成されます。しかし、著者はその効果は短期的であると述べています。

なぜなら、金利引き下げ政策によって将来の需要はどんどん先食いされていき、経済の成長が弱くなる自己強化型の経路が作られていくからです。このため、中央銀行は経済状況を不況から脱出させるために、金融刺激策を次々に繰り出さなければならなくなっています。個人消費や設備投資の増加率を維持しなければならないためです。ところが、不況から経済状況を脱出させるために低金利政策を採用すると、収益を生まない資産への不良投資も横行してしまうと著者は嘆いています。
また、2008年にリーマンショックが発生して大規模な金融緩和策が各国で発動されましたが、この本が出版された2017年前半の時点においても、主要国の経済成長率やインフレ率が低水準でとどまっている原因は、不況が発生するたびに中央銀行が低金利政策を採用したことにより、需要の先食いがもたらした根本的な弱さにあると述べています。著者は、危機を脱するには、金融緩和策は必要であるが、金融政策頼みの経済運営は過ちであり、資本主義経済には浮き沈みがつきものであるため、これまでとは異なる対策が必要であるとも断言しています。

著者は、2008年にリーマンショックが発生する前には、銀行は自己資本が少なすぎたと断定しています。このため金融危機発生時に、銀行は金融危機を吸収する能力がなかったと述べており、金融危機の再来を防止するためには、銀行の自己資本比率を10%まで引き上げる必要があると述べています。また、銀行へ預けられた預金の3分の1以上の金額は、流動資産として管理し、金融危機が発生した場合にはただちに換金できる措置をとれるようにすることも必要と述べています。この2点が著者による対策案です。
仮に今後、不況が発生しても、それぞれの銀行が資産価値の毀損に耐えられる状態ならば、中央銀行が極端な金融緩和策を発動する必要はなくなるという見解を述べているのです。

低インフレと低金利が続いている理由を学べた

私は投資会社で資産運用の仕事をしているため、この本を読んだことにより、リーマンショックが発生して以来、なぜ今日にいたるまで低いインフレと低い金利が続いているのかを理解することができました。

2000年のITバブル崩壊、そして2008年のリーマンショックのように不況や金融危機が発生するたび、世界各国の中央銀行は低金利政策を採用してきましたが、危機が発生するたびに金利水準が下がってくる理由も、この本を読んで理解することができました。理由は、需要の先食いにあったからです。金利が低くなれば、国民はマンションや一戸建て住宅、新車を購入する動機が高まります。

そのため不動産などの資産価格は上昇するのですが、次の不況が発生すると、高騰した不動産価格は大幅に下落してしまい不良債権化してしまいます。そのため、銀行経営は苦境に陥りますし、国民生活も苦しくなりますから、再び中央銀行はさらに極端な金融緩和策を採用せざるをえないことに気づかされました。その結果、とくに日本では10年もの国債金利が1%を下回る状況が長年続いているのです。

私はこの本を読んで、日本国内において低金利が長期化している要因を知ることができましたし、今後も数年間は10年もの国債金利が1%を下回るであろうと予測することができました。そのうえで、安心感をもって私が会社で担当しているファンドにおいて、不動産REITを大量に購入することができました。不動産REITは自己資本と銀行からの借金を使ってマンションやオフィスビル、商業施設などに投資をして、運用経費を差し引いた利益のほぼ全額を、出資者に対して分配金として配当する仕組みをとっています。
このようなビジネスモデルであるため、不動産REITを運営する投資法人にとっての最大の経営リスクは、借入金利の上昇です。仮に1%も借入金利が上昇すれば、ほとんどの不動産REITでは分配金利回りが0.5%程度減少する計算となります。しかし、この本を読んだことにより、日本国内においては数年間金利は上昇しないと判断することができたのです。
また、この本にはリーマンショックの根源ともいえるアメリカの投資銀行の業容規模が、2008年当時と比べて3分の1程度に縮小されて、不良債権化する可能性のある資産は小規模であると記載されていて、私は安心感を抱くことができました。

またもやリーマンショックに類似した金融危機が発生すれば、私が担当している仕事で多額の損失が発生してしまいます。そのため、危機が発生する可能性が当面はないと知ることができて、この本を読んで良かったと思った次第です。"


金融政策を立案する立場の方に是非読んでほしい一冊

この本は日本政府の財務省や金融庁、あるいは日本銀行に勤める公務員の方にお勧めしたいと思います。金融政策を立案する立場の方にこの本を読んでいただき、次の不況発生や金融危機発生のとき、どのような方策によって被害を少なくできるかの対応策を立てていただきたいと思います

現在は、日本国内ではインフレ率はいまだに0.5%近辺で推移している状況ですが、東京都心の不動産価格は上昇し続けています。東京の中心部ではバブル化が進行してるのです。このため、数年以内に東京都心の不動産価格が反転して下落に向かう状況が発生することは確実です。不動産価格が下落するということは、不動産を担保に差し出して金融機関から借金している人は、追加の担保差し入れを金融機関から要求される事態となります。しかし、追加で担保を差し出せる人は少ないと予想できます。このような状況が不況なのです。高騰した不動産価格が下落に転じることが、そのまま不況に直結するのです。
政府当局者におかれては、いまのうちに、銀行の自己資本比率を最低でも10%まで引き上げる措置をとるとか、投資用不動産への融資金額を抑制する政策を採用するなどの措置をとるなどして、東京都心の不動産バブル崩壊対策をとる必要があると思います。日本銀行の大規模な金融緩和政策によって不動産バブルが生まれているのですから、火消しをする措置を検討することが重要です。

不動産価格の高騰を緩やかな状況に移行させて、バブル崩壊の規模を小規模に食い止め、一方では銀行の経営体力を高める措置をとることが、次の金融危機を発生させないために必要なのです。

 

gendai.ismedia.jp

錬金術の終わり 貨幣、銀行、世界経済の未来

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