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マイナス金利政策 3次元金融緩和の効果と限界 岩田一政・左三川郁子・日本経済研究センター

この本は2016年8月に出版された本で、著者のなかには2003年から2008年まで日本銀行副総裁を務めた経歴を持つ岩田一政氏も含まれています。
この本は、2016年2月に日本銀行が導入したマイナス金利政策に対する評価を軸として、そのメリットとデメリットが述べられています。メリットとは、長期金利を引き下げることが、市場金利の引き下げにつながり、金利低下の効果によって資産価格を高め、さらにはポートフォリオ・リバランスを促すことによって為替レートを円安に誘導させる効果を持つと指摘しています。

第二のメリットとしては、政府の国債利払い費用が減少するため、政府債務残高の伸びが鈍化すると述べており、個人消費や企業の設備投資が拡大すれば、政府の財政赤字の解消が進展することになると指摘しています。

一方、マイナス金利政策のデメリットとしては、通常の金利は正の値をとることを前提として法制度や会計制度が成り立っているため、市場金利がマイナスになった場合、その処理に戸惑いが生まれる点についても指摘しています。具体例としては、民間企業の退職給付債務への影響です。

そして、第二のデメリットとしては、預金者にとって利子収入が減少するだけでなく、事実上手数料が徴収されることを挙げています。この結果、消費者が予備的な貯蓄を増やす行動をとる場合には、マイナス金利政策の有効性は低下することになると述べています。
さらに、第三のデメリットとしては、民間金融機関がこれまで日本銀行の当座預金に預けていたときは0.1%の預金金利を享受できたわけですが、マイナス0.1%の預金金利が適用されることで、民間金融機関の金利収入が減少することを挙げています。
加えて、第四のデメリットとして、民間金融機関のビジネスにおける利ザヤが縮小することも挙げています。低金利政策のもとでは、民間金融機関の利ザヤは圧縮される傾向にあります。この本では、大手銀行の業務純益は約2100億円から約3000億円減少し、地方銀行は約1900億円から約2700億円も縮小すると推計しています。

また、この本では日本銀行の金融緩和政策が限界に達しているのではないかとも論じています。積極的に2%のインフレ目標を達成するための政策を採用しているにもかかわらず、原油安や新興国経済の減速によって達成が困難であると述べているのです。
そして、この本では国債買い入れが限界に達しているため、マイナス金利政策を発動せざるをえなかったのではないかと推論しています。現在、日本銀行は年間120兆円の長期国債買い入れを実施していますが、この本のなかでは2017年半ばには市場に流通している長期国債の全てを買い切ってしまうと推計しています。日本銀行の量的緩和策は限界点に達していると指摘しています。
このため、今後のリスク要因としては、国債価格の変動率が高まってしまい、金融市場が不安定化する可能性が高まることを指摘しています。また、この本では新興国の債務が膨張していることや、中国の外貨準備高が減少傾向にあることなどを挙げ、外的要因により新たに金融危機が発生した場合に、日本銀行が採用できる金融政策はあるのか否かという疑問点も呈しています。

投資先の見直しを図ることができた

私は投資会社で資産運用の仕事をしているため、2013年4月に日本銀行が発動した大規模な量的金融緩和策のおかげで、株価上昇の波に乗ることができ、仕事上、多大な恩恵を受けることができました。また、2014年10月に実施された、日本銀行による大規模な追加量的金融緩和策により、再び株価は大幅に上昇したため、私自身も仕事上の恩恵を受けることができたのです。

この2回の日本銀行による金融緩和政策により、私の頭の中では「日本銀行による政策発動イコール資産価格上昇」という固定観念ができあがってしまっていたのです。
ところが、この本を読み、すでに日本銀行が購入できる長期国債については、ほぼ買い尽くしてしまっていることを知り驚愕させられました。日本銀行が量的緩和策を実行しようにも、選択肢が狭めらられていることを知り、これからの金融市場には大きな異変が生じるかもしれないと、感じさせられました。そして、この本を読んだあとは、積極果敢な投資行動を行うことは慎むようになり、上場株式のなかでも今後も業績が堅調に推移すると思われる銘柄だけに絞り込んで、投資を実行するようになりました。私の行動は慎重になったのです。私が厳選している銘柄を具体的に挙げれば、第四次産業革命と言われる人工知能関連や、電気自動車関連の銘柄です。これらの企業の株式に積極的に投資を行っています。

また、この本を読んだことにより、銀行の業績が伸びることはないことを確信するに至りました。とくに地方銀行の株式については買うわけにはいかないと判断できました。いままでは、銀行株は景気が良くなれば、これに比例して銀行の業績も伸びていくことが常識でしたし、実際に銀行の業績は伸びていきました。しかし、この本を読み、とくに地方銀行の業績は悪化の一途を辿るのではないかと危機感を抱いたのです。ですから、配当利回りが3%を超える地方銀行株は多いのですが、私が担当しているファンドからは地方銀行株をすべて外しました。

そして、この本を読んだおかげで新興国の債務が膨張していることを初めて知りました。新興国の場合は、ドル建ての債務が多いですから、今後さらにアメリカが利上げを継続させるならば、ドル高新興国通貨安が進行するはずです。すると、新興国の財政は悪化すると予想できますから、新たな金融危機が発生する可能性が迫ってきていると思わざるをえないと思いました。さらには、金融危機が発生した場合に、いまの日本銀行に新たな金融政策を打ち出す余裕があるのか不安を抱いた次第です。


この本を読んだおかげで、少しでも金融危機発生の予兆を感じたときには、ただちに保有している株式をすべて売却する心構えを持つことができました。


金融関係の仕事に従事している方におすすめ

私と同じような資産運用関係の仕事に従事している方にお勧めしたいと思います。もはや日本銀行が長期国債を買うことができないのであれば、日本の金融政策の選択肢が狭められていることは明白です。このような状況下で、世界経済に大きな影響力を持つアメリカが金融緩和政策を終了させて、利上げ政策に転換しています。一方では、この本に書かれているように、新興国の債務が膨張状態にあります。新興国の債務はドル建てが多いですから、ドル高新興国通貨安のトレンドが進行するようであれば、新興国の財政は大幅に悪化する可能性があります。そうなると、金融危機の再来です。いまから、私たち資産運用の仕事に携わる者は、日々警戒感を抱きながら慎重な運用業務を行う必要があると考えます。
また、政府与党の政治家の方たちにも、この本を読んでいただきたいと思います。日本銀行の量的緩和策が限界点に達していると推計されているのですから、目標インフレ率2%を掲げ続けることは無謀な政策運営と考えざるをえません。仮に、さらなる量的緩和政策を推進するために、長期国債に代わって株式を大量に購入することに踏み切れば、まさにバブル政策となってしまいます。

このような金融政策の現状を踏まえれば、政府与党の政治家の皆さんには、冷静にこの本を読んでいただき、目標インフレ率を1%に引き下げて、この目標を達成した時点で金融緩和策を終了させる方向へ政策転換する判断も必要なのではないかと思った次第です。

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マイナス金利政策 3次元金融緩和の効果と限界

マイナス金利政策 3次元金融緩和の効果と限界