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有名企業からの脱出 あなたの仕事人生が〝手遅れ〟になる前に 冨山 和彦

同書は1~6章に分かれ、それぞれに本文とそれに関連する著者独自視点からのコラムが38個も付帯しているという構成である。

著者はこの本で、昨今日本の大企業が直面してるコンプライアンス問題やM&Aでの失策などが企業の共同体意識によってもたらされていることを指摘している。その意味で同書のメインとなるのは冒頭の1~2章である。1~2章を内容をセクションごとに要約すると以下のようになる。

企業の共同体意識、いわゆる「ムラ社会」の虜になった社員が会社を危機に陥れている。こうした社員はムラ社会の中で「(出世)ごっこ遊び」をするようになる。小説「沈まぬ太陽」やドラマ「半沢直樹」で描かれている人間模様である。しかし「ごっこ遊び」に負けたからと言って腹を切らされるわけでも、莫大な連帯債務を負うわけでもなし、結局のところ社内で「勝った、負けた」なんていうのは所詮はバーチャルでしかない。

「ごっこ」で勝ってトップに立った経営者はえてして「ムラ社会」の空気を最優先するから、「会社のためを思ってやったこと」と不祥事に手を染める。そしてそれが「会社のためにやったんだから仕方ない」と許されてしま空気すらある。特に大企業の社員は「タイタニック」の乗客のように、沈んでいることに気がつかない。底から水が入ってきていても、まだ暖房も効いているし、パーティも続いているから大丈夫だと、船の中で盛んにイス取りゲームをやっているのだ。彼らは最後までリアリティを感じられないでいる。何しろ人生で今まで「タイタニック」を降りたことがない人たちばかりだからだ。

「ムラ社会」を助長する存在にOBというのがいる。自分はいい時代を過ごさせてもらって感謝こそすべきなのに、「今の会社はなってない」とばかりに余計な口出しをするような人とは早めに絶縁すべきである。

いずれにせよ共同体意識が強すぎると、こういった多くのしがらみの中で身動きが取れなくなる。最後の局面では雇用の問題でがんじがらめになってしまい、撤退したい部門を残してしまうなど、誤った選択を続けた結果、カネボウの繊維部門やシャープの液晶のように全体の沈没を招いてしまうのである。

アメリカのように経営トップがおかしくなるだけならトップを変えればよいのだが、日本のような共同体企業はそれ自体が抽象的に膨張してしまうので始末に困る。そのDNAが社風として受け継がれていってしまうと、誰にも歯止めをかけることができなくなってしまう。

日本の企業もまだまだ復権のチャンスはたくさんある。特に製造業は。日本はまだまだ圧倒的な製造業大国である。彼らは事業の「選択と集中」で的確なチョイスをし、儲かる事業に集中していけばよいし、こういう領域にはザッカーバーグのような起業家が突然登場しない。また技術的にも中国や韓国に入って来られる心配も当分はない。

「得意のすり合わせや蓄積技術がものを言う領域でスモール・バット・グローバル・ナンバーワンの事業を積み上げていくこと」が結果的に事業の拡大を生む。これは何もニッチの分野に限ったことではない。コマツやブリジストンなど大企業が好調なのが良い例である。安い労働力がもう使えない日本がアジアの新興国にビジネスを奪われるのは当たり前のこと。しかしまだまだ日本には潜在的な力がある。

3章では著者が関わった、非常に大きな仕事であったJALタスクフォースについて書かれている。
4章では教育・人材のことにも触れている。著者の提唱する専門職業大学についての主張はそれだけで十分大きなテーマである。
5章ではリーダーシップについての言及されている。簡単にまとめると以下の通りだ。
・これからのリーダーはまず「この分野においては自分が世界一だと思える」人でなくてはいけない。そう思えない人はここぞというときに意思決定ができないのだ。高度経済成長期のリーダーの多くはたいした意思決定は必要なかった。でもそれで何事もなく成長できていた良い時代だったのだ。

また修羅場を経験している強さは必ず活きてくる。紛糾や揉め事が起こると自然にアドレナリンが湧いてくるような人こそふさわしい。日産のゴーンさんなどはその象徴かもしれない。

ギリギリのところで妥協点を見つける利害調整をし、時には身を切ることも覚悟して取り組む与党タイプでなくてはいけない。何にでも白黒つけろと批判ばかり言って、声ばかりでかい野党タイプがリーダーになると難局に際してすぐに逃げ出したりする。

6章は「会社に左右されない生き方をどう見つけるか」と題して、サラリーマンのキャリアについて考えを述べている。


果たして日本的な共同体組織からの脱却が正しいのか

これは経営指南書というよりは企業の組織論であり、リーダーシップ論であり、もっと壮大なテーマ「今後の日本経済の進むべき道」についての考察した本である。日本で初の戦略的コンサルティング会社を立ち上げ、JALをはじめ多くの有名企業の経営改革に尽力した著者だからこその、少し辛口であるけれど、本音で語った内容だったと思う。

バブル崩壊からリーマンショック、そして長期のデフレからやっと少し立ち直りのきっかけを見せている日本経済だが、メディアでは連日のように企業の不祥事が報道されている。そして現代ではそれが企業の命運を左右する大事へと発展してしまう。
コンプライアンスの問題だけではない。経営者の判断ミスによるM&Aの失敗、技術の海外への流出と海外との人材獲得競争での劣勢など、ネガティブな話ばかりが目立つのである。
これは一体何が原因なのだろうか?そこを鋭い切り口で検証、紹介してくれている。
バブル崩壊後、各企業はリストラの断行、経費の切り詰め、採用控えとともに、年功序列・終身雇用を捨てる決断を迫られ、多くの企業が制度変更に踏み切った。
その一方、会社内には「高度成長期~バブル期」は日本企業の共同体意識、その滅私奉公の精神や粘り強いボトムアップの手法が、世界を席巻した要因だと胸を張る世代がいたのも事実。実はまだかなりの数のベテラン、中堅社員が旧来の日本型共同体を本当に捨て去って良いのかという迷いを持っていると思う。

その証拠に大々的には取り入れた欧米型の人事処遇制度が、運用上ではあまり機能していなかったりするからだ。「給料の半分は成果主義だが、あとの半分はバブル期以前の序列型を残す」なんていう運用もよく耳にする。
しかし実は「戦後~高度成長期」はこうした共同体型の組織構造ではなかったのでは?と考えるようになった。その証拠に石坂泰三や土光敏夫も色々な会社の経営者を歴任している。生え抜きではないのだ。つまり、この共同体意識は何も日本人に根付いたDNAでも何でもないのではないかと。結局こうした共同体意識は、成長を遂げた日本企業が守りに入るためにちょうど良い仕組みだったのではないか。この「ムラ社会」的組織形態で海外との競争をカモフラージュして、高度成長期に積んだ貯金を食いつぶしていただけだったのではないかと思うようになった。

読後には、「これで自分なりに結論が出た」と思いに至ったのだが、少し時間を経て、また少し迷いが生じてきている。

著者の言葉は、実際に多くの現場、修羅場での経験に裏うちされた重みがある。残してきた実績を見れば説得力は更に増し、またその歯切れのよい物言いに大変共感を覚える。しかしアメリカのコンサルタントの著書を読んだりすると、意外に日本的なチームワーク思想というのが重宝がられていたりするらしいのだ。

この本を通して貫かれていたのはアメリカ的な経営思想である。著者はアメリカの大手BCGに就職し、アメリカでMBAを取得したわけだから、当然といえば当然なのだが、それが日本のすべての企業のスタンダードにしてよいのかという疑問は完全にはクリアにはならなかった。しかし現在中途半端な形で取り入れている成果主義などを、もっと強力にプッシュしても、「方向性に間違いはない」という自信は得られた(著者が言うところの、「成果主義アプリを追加」するのではなく「OSを変える」ということ)。


これからの日本を動かしていく30代のビジネスパーソンにおすすめ

この本は30代の、これからの日本を動かしていく世代のビジネスマンにこそお薦めである。著者が言うように今の30代は厳しい就職活動を経験し、入社後も、同期も少ない状況の中でよく勉強して来た世代だ。企業、特に有名企業の組織と意識を変革するのは生半可なのことではない。

もちろん人事セクションで従事する方にも読んでもらいたいが、いくら人事といえども、社内のひとつのセクションが出来ることはそれほど大きくはない。根底を覆す、それこそOSを変えてしまうような改革をするのであれば、その企業の存続に責任を持つ覚悟のある人でなくては成し得ないと思う。

それから現経営陣は、もし思い当たるふしがあるのならば次代を担う後輩が改革をしやすいような環境は少なくとも作ってあげてほしい。
3章のJALでの仕事なども、当時ニュースで伝えられていた内容を思い出しながら比較して読み進めるのも良いかもしれない。
4章の教育に関する著者の提言については、本のメインテーマから少し外れるかもしれないのだが、これはこれで面白いテーマなので教育に関心を持つすべての人が興味深く読むことができると思う。

ただ言えるのは、「すべての」ビジネスマンが、著者の言う「共同体組織からの脱却」が本当に正解なのかを検証してみる価値があるということだ。各所に綻びが見られる今の日本の企業組織が正解であるはずはないのだから、著者の指摘がベストプラティクスなのか、あるいは別に答えがあるのか、全世代で考えるべき時に来ている。
そして、その上にこそ日本の復活があるのだと思う。

anond.hatelabo.jp

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