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アメリカの原理主義 河野 博子

この本は、タイトル通り”アメリカの原理主義”について書かれた本です。”アメリカの原理主義”とは何を指すのかというと、キリスト原理主義や右翼的イデオロギーを持った人たち、傾向のことです。著者の河野博子さんは、読売新聞社の編集委員で、ニューヨーク支局長などを経験してきた方です。

 アメリカには通算9年暮らしていた著者の、現地でのインタビューを通してアメリカ社会が宗教右派へ傾いていくさまを、固い冷たい筆致で描き出します。著者が取材していたのは、9・11アメリカ同時多発テロ以降のアメリカや、ブッシュ大統領(”子ブッシュ”の方)の時代。著者は、アメリカでの生活・取材をしていくうち、「社会の座標軸がズズッと右にずれたような変化」を感じたといいます。そのきっかけは、9・11アメリカ同時多発テロを境に、保守回帰を強めていったと分析します。「新たな装いをまとった21世紀のアメリカ原理主義」が、アメリカ社会の底流に見え隠れしている、といいます。

この本が出版されたのは2006年のことです。まだトランプが大統領選挙に勝つという驚きの結果が出るよりも、ずっと前に出版された本です。アメリカの社会の深い底流の層に、表面からは見えない偏った過激な宗教右派の思想を持った人たちが、私達が想像するよりもずっとたくさんいるということが証明されたのが、トランプ政権の誕生だと思います。しかし、思い起こせば既に小ブッシュ政権時代に、ラムズフェルドなどのネオコンの流れがあり、イラク戦争や中絶反対運動など、その”底流”の一端が見え隠れしていたことに気づきます。

私達日本人は義務教育でダーウィンの進化論を学んで、私達の祖先はサルやネズミだったということを割と素直に受け入れているように思いますが、リチャード・ドーキンスの『神は妄想である―宗教との決別』などに書かれているように、アメリカのおよそ半分の人たちがいまだにキリスト教の創造説を信じていて、自分たちは神様によって作られた特別な存在で、アダムやイヴの子孫なのだと信じているとも言われています。また、ドーキンスとの激しい論陣を張ったアメリカ人の故・スティーヴン・J・グールドも、反差別・リベラル思想でしたが、宗教右派に都合良く解釈をねじ曲げられて苦労していたようです。「神はサイコロを振らない」と言ったアインシュタインも同じように、アメリカの宗教者の身勝手な解釈に苦労していたようですし・・・。
現代の日本人の感覚からすると、現代の進歩した民主主義社会のアメリカの多くの人たちがそういう偏った考えを持っていることに、どうにも理解ができないところもあるのですが、その秘密の一端を解き明かすことがこの本の目的ではないかと思います。


現代アメリカ社会の宗教右派の現実がわかる

著者は、”キリスト教連合”の創設者、パット・ロバートソン師に取材を行っています。この方は人気のテレビ伝道師らしいのですが、その彼がテレビ番組を放送しはじめたのが1960年頃、そして1989年にキリスト教連合を創設したそうです。”アメリカ原理主義”や”宗教右派”が、じわじわと長い時間をかけてアメリカ社会に浸透し、共和党のメインストリートに踊りだしていく様がこの本から伝わってきます。まるで、日本における日本会議のようにも感じました。

著者によるロバートソン師への取材で、「ここ(アメリカ)はキリスト教徒の国だ」とか、アメリカは「キリスト教をベースにした国であるべきだ」との主張を展開されます。
また、著者による直接の取材は、学校の保健授業にまで及びます。「第7章 純潔と禁欲」の「実技を交え禁欲を教える」では、アメリカのある学校での保健教育での、「キスは額に素早く」などと教えていることまでも取材していました。

著者は、アメリカでの取材中も「極力、宗教的要素を避けてきた」のですが、それでは日本人がアメリカ人の心性を理解できないといいます。そして、最後の第10章である小説を紹介します。

その12巻のシリーズ小説は、通称『レフト・ビハインド』シリーズと言い、副題は「地球最後の日々を描いた小説」です。聖書の”ヨハネの黙示録”に沿ってストーリーが展開され、ハルマゲドン(終末)の闘いの末に”千年王国”に至る、という内容だそうです。キリスト教に反発する勢力が国連を使って世界政府を樹立するのだとか・・・。日本人の大人の感覚からすると、子供向けの娯楽小説のようにも思えますが・・・。

実はこの小説、アメリカでは6500万冊以上売れているということです。6500万という数字は驚くべき数字で、日本人の人口の半分にあたります。アメリカの人口だと、6分の1くらいでしょうか。この本が子供だけに限らず、アメリカ人の大多数に読まれていることがわかります。

著者はこの小説12冊を読破したというコンピューター会社に務める45才の男性に取材していました。カトリックの家に生まれたものの、一時は宗教とは無縁の生活を送ったという男性が、この小説を娯楽小説だといいながらも、世界の終末は近いのか、それはいつなのかについて考えている様子なのには、驚きます。この小説の二人の著者が”宗教右派”のリーダーたちと極めて親しい間柄であることも明かされます。

2004年に行われた世論調査では、「次の1000年の間にキリストが再臨する」と答えた人は、52%にもなるとこの本には書かれています。日本人的な感覚では、アメリカ人を見てはいけないのだというのが、よくわかります。


日本人のビジネスマンは読んでおくべき本

北朝鮮の核ミサイル問題にどう対処するのか注目の集まるアメリカのトランプ政権ですが、この問題はもちろん日本人としても他人事ではありません。トランプ大統領の頭の中は一体どうなっているのか、なぜこんな人をアメリカの選挙が選んだのか、とても理解に苦しむところもあります。トランプの動静が日本の経済に与える影響も計り知れないのに、一体トランプが次に何をするのか予測することもできません。一体、あの人の頭の中は、どうなっているのだろうと思っている日本人、とても多いみたいです。

池上彰さんのテレビ番組などでも取り上げられるように、世界の宗教や思想は私達の生活にもビジネスにも深く関わる面もあります。特に日本と関係の深いアメリカの思想宗教については、少しでも理解しておきたいところです。
それに日本だって、森友学園での子供たちへの偏った思想教育や、最近よく取り沙汰される日本会議の問題だってあります。今や、日本の”宗教右派”の問題は知らないでは済まされない時代にもなっているのだろうと、この本を読んでいてつくづく感じました。

この本をざっと読んでみて、未だに進化論よりも創造説を信じたりするアメリカ人の心性が、少しだけながらわかった気もします。GoogleやAmazon、Microsoftなどなど、仕事に関わりの深いアメリカ企業の人たちが、どんな考え方をして、反発を起こすのかの予測にもいくらか役立ちそうに思います。小ブッシュが、意外にも偏り過ぎないバランス感覚の持ち主だったらしいこともわかりました。

今まで日本では、思想宗教の話題はご法度で、見てみぬフリをしていれば良かったところもありますが、もうそういう時代ではないのかも知れない、という気が、この本を読んでいてしてきました。
日本人のビジネスマンにとっても、読むべき本の1冊だと思います。

www.huffingtonpost.jp

アメリカの原理主義 (集英社新書)

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