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クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち 松崎一葉

精神科産業医である著者がこれまでの企業や官公庁でのメンタルヘルスケアの仕事の中で経験してきた事例をもとに、昨今大きな問題となっている会社員の長時間労働、過労、うつ病などの精神疾患の原因を探っていく内容である。

 とりわけ、部下を精神的に追い込んでいく、いわゆる「クラッシャー上司」に焦点をあて、彼らの行動のパターンを類別しながら掘り下げている。なお、「クラッシャー上司」という名称は著者と東京慈恵医科大学の精神科医である牛島定信氏が共同で名づけたものである。

下記の通りに「クラッシャー上司」を5つの実例を挙げて、タイプ別に分類する。
①ワル気はないが鈍感タイプ
紹介されている上司は、決して普段から面倒見がよいわけではないが、行き詰っている部下に「仕方ない手伝ってやろう」と言って深夜まで度を越した「付きっ切り」をしてしまったそうだ。トイレすら自由な時間も持てず、付かれる部下にとっては仕事でプレッシャー、上司の監視でプレッシャー。ダブルストレスで潰れしまったわけだ。決まり文句は「オレもこうして指導してもらって成長した」だ。このタイプはトンチンカンで鈍感なだけだから、まだ救いようがないわけではないが、、、。

②「共感性ゼロ」タイプ
①のタイプは多少の共感性(人の痛みが解る)はあるものの、こちらはそれが皆無である。例として登場する上司は皆の前でネチネチと非を責める「雪隠詰め」をする。理詰めで休む間を与えずとことん言葉で追い詰める。このタイプは何よりまず部下を褒めることが一切ない。
部下を褒めるステップは「成功までの経過そのものを褒める」→「成功した結果を論理的に評価する」→「成功を共に喜び共感する」→「次の成功の期待を表明して課題を与える」という段階を踏むべきだが、そういうプロセス云々以前の問題である。
また完ぺき主義以上のこだわりがあり、パワポの文字のフォントにまでケチをつける。軽度の発達障害ともいえる。

③ターゲットを決めて姑息にイジメをする「薄っぺらなクラッシャー」タイプ
明確なターゲットを決めてイジメを展開するタイプ。特に自分の地位を脅かされそうな有能な後輩に対し、陰湿なモラハラを繰り返す。わざとターゲットだけ飲み会に誘わなかったりなど、姑息なイジメを繰り返す。
被害者側は「会社にはああいう人もいるのだ」とものわかりよくガマンしすぎて潰れてしまったのだが、これも良くない対応だった。

④幼児退行・未熟型うつタイプ
とにかく傍若無人で「オレのやり方がすべて正しい」というタイプ。①②③のすべてのタイプを包含する。部下を部屋に呼び出しては叱責して追い込む。ただし仕事は出来るので始末がよくない。
訳もわからず妙に不機嫌だったり、ハイな気分の時は気に入った連中を誘って自分が気に入っているブランド物の薀蓄を語るなどして悦に入るようなタイプ。その行動は部下を追い込んで楽しむという、赤ん坊的な「退行」の顕われである。
また最近世間がパワハラに敏感になっていることも考慮し、最初は冷静に、そして徐々に追い込むような、狡猾にイジメをしていくという頭脳派でもある。
他人に共感するどころか他人を潰してでもわかり易い結果を出して認められたいという意識ばかりが強くなってしまった典型例だ。

⑤未熟型うつタイプ~部下編
自分には根拠のない万能感と歪んだ自己愛がある。処遇が気に入らない(自分はもっとよい待遇を受けるだけの能力がある)など普段から憤懣を抱えている。会社からわがままを指摘されると「精神的に追い込まれた」と言って休職するなどやりたい放題。
最後には会社を訴えるという暴挙。これも所謂「ギャー」と騒いで赤ちゃん返りをするタイプだ。

「クラッシャー対策」として著者は「ハラスメントを受ける側の意識を変革していく」こと、「頼れる同僚や別の部署の上司など、相談できる相手を作っておく」ことが重要であると提唱する。
また、こうしたクラッシャーを登場させてしまう背景には日本の人材管理や人員採用のやり方に問題があるのではないかと分析する。特に日本の多くの企業で行なわれていた(いる)、新卒一括のメンバーシップ型採用方式に問題があると警鐘を鳴らす。欧米のように職務を切り口としたジョブ型採用方式であれば、こうした問題も発生しなかったかもしれないと仮説を立てる。

日本型一括採用がクラッシャー上司を生む土壌となっている


このような本が、ビジネスマンや経営者、または経営学や経済学という領域で活躍する人の著書としてしてではなく、産業医の医師から上梓されたのは大変意義深いと思う。勝手な思い込みだが、これまでは企業の産業医はあまり企業内部に踏み込んだことはしてこないという印象だった。

定期的な状況確認と何人かのカウンセリングを行なうだけ。会社側にもあまり立ち入ってほしくないような雰囲気があったのかもしれない。しかし時勢の求めなのか、ここまで踏み込んでくれる精神科医がいることに感心した。
これまでの日本の企業では、書中にもあったが、「カウンセリングなんか受けるヤツは気持ちの弱い情けないヤツだ」などという乱暴な上司の下に黙殺されていた不都合な真実も多くあったと思われる。そうした暴挙を炙り出す効果だけでもこの本は大いに意味がある。
私の会社にも産業医の先生が居るが、会社の健全な活動のためにも、産業医にはもっと手を貸してもらうべきである。

それから非常に注目したのは、こうしたクラッシャーを産む要因として、企業のメンバーシップ型採用(雇用)方式が関係しているという指摘だ。
経済成長を遂げた日本において大いに効力を発揮したのがこうした一括大量採用によるメンバーシップ型の共同体意識だった。

しかし、私はここに疑問を抱いていた。今となっては、この共同体意識が多くの企業で問題となっている様々な不祥事や判断ミスの元凶になっているのではないかと。その私の疑問に対して、この本がひとつの答えをくれた。
成長期を終えて停滞期に入ったわが国の経済においては、共同体における滅私奉公の精神というものは必ずしも美しいものではないという指摘だ。
「会社のためにガマンしょう」とか「あんな上司だが、上司は上司だ、何とかついて行こう」といった古い考え方にはもはや歪みが蔓延している。

我々はこうした考えを簡単に捨てることは難しいのかもしれないが、しかしグローバルな市場で闘っていくと決意したならばやはり変わらなければいけないのだろう。

 

もうひとつ感じたのは幼少期の教育というもの(特に家庭での)がやはり大切なのだということだ。
上記した「幼児退行・未熟型うつタイプ」の上司などは典型的な家庭教育失敗例である。
子どもの育て方は各家庭に委ねられているので、親が学ばなければ良くはならないのだが、頑なに歪んだ価値観を持つ親というのは一定数居るものである。
親が未熟なままなら子も未熟なまま社会に出てしまう。しかしこれについては外野が手を出せない部分だ。我々はただ「こういう人が自分の会社に来ないように」と願うしかないのだろうか。「三つ子の魂百まで」とは言うが、何とか産業医の手で矯正してもらいたい。
しかし書中にもあったが、凝り固まった思考の持ち主には産業医も手を焼いているそうだし、ここは意外に厄介なところかも知れないと感じた。

企業の経営者や人事担当者は必読

この本は、もちろん企業の経営陣や人事部署の人は必読だと思う。
ただ自分も「クラッシャー」なのにその自覚がない人も多いので、そういう意味ではより多くのビジネスマンが読むべきなのではないだろうか。そして思い当たるふしがあったら、自省してみることをお勧めする。
実際にあったエピソードをもとに書かれているので、大変読みやすいし、会社の各部署に1冊据え置いてもよいかもしれない。
ハラスメント対策は企業でも何らかの形で取り組んでいるとは思うが、なんと言っても「クラッシャー」本人に気づいてもらうのが一番有効である。
歪んだ認知を矯正する「クラッシャー対策プログラム」なども産業医やカウンセラーによる療法もあるそうだが、それを進んで受けるようなクラッシャーは少ないだろう。だからこそ自らの「気づき」が重要だ。
本当に、かつてここまで踏み込んだ著作がなかったので、この本がビジネス界に与える影響は小さくないはずだ。
ただひとつ残念なのは会社側としての対応策があまり書かれていなかった点だ。
結局「相談相手を作り、ストレスを抱え込まない」といったアドバイスはクラッシュされる側の個人々々に対するもので、人事担当者からしたら「会社側ができることはそれほどないのか?」と思ってしまう。
そこはやはり著者がビジネスマンではないということがネックになっているのかも知れない。
そう考えると次回作は経営者などビジネス畑の人との共著か、対談形式にすると面白いのかもしれない。
いずれにしても、国を挙げて取り組んでいる「働き方改革」において大きな助けとなる一冊かもしれない。

eulabourlaw.cocolog-nifty.com

クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち (PHP新書)

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