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マネーの支配者: 経済危機に立ち向かう中央銀行総裁たちの闘い ニール・アーウィン

この本は、アメリカのニューヨークタイムズ紙の経済担当記者をしているニール・アーウィン氏が、2014年3月に日本で出版した本です。
この本では、世界の主要国において中央銀行が設立された経緯から、2007年に発生したサ
サブブプライムローンショックや、2008年に発生したリーマンショックに対する世界主要国の中央銀行の対応、さらに2011年に発生したギリシャ債務問題に対するヨーロッパ中央銀行の対応など、これまで中央銀行が果たしてきた役割と歴史が描かれています。
この本によれば、世界初の中央銀行は、スウェーデンのストックホルム銀行です。1656年に設立されました。当時のスウェーデンは、スカンジナビア半島全域を支配する北ヨーロッパの大国でした。

そして、貨幣制度はすでに設立されていましたが、一般市民まで貨幣が流通しない状態が続いたため、スウェーデン経済は競争力を失いつつありました。そこで中央銀行が設立されたのです。

ストックホルム銀行は、預金の受け入れを開始するとともに、民間企業への融資を開始し、スウェーデン経済の規模は拡大していきました。結果的には、貨幣の流通量を極端に増やしすぎてインフレが加速し、信用創造を極端なまでに実行したためバブル経済は崩壊し、1667年にストックホルム銀行は清算されました。

最初の中央銀行設立の試みは失敗に終わりましたが、次に主要国の中央銀行として、1694年に設立されたイギリスのイングランド銀行は、現在も活動を継続させています。1860年代、イギリスは大英帝国として海外に多くの領土を持ち、イギリス企業は海外の植民地に鉄道建設など多額の投資を実行していました。ところが、一部の金融機関の鉄道建設会社への融資が焦げ付くという噂が広がり、この金融機関に対して一般市民が預金引き出しに殺到したのでした。

また、この時代のイギリス経済は手形決済が幅を利かせていました。例えば、造船会社は手形を発行して、鉄や木材を仕入れ、鉄を販売した会社は造船会社から受け取った手形を銀行に持ち込んで割り引いてもらっていたのです。
しかし預金取り付け騒ぎによって、資金の流動性が逼迫し、イギリス経済は金融危機に陥る危険性に直面しました。そしてこのときイングランド銀行は、大規模な信用供与を実施することを決断し、金融危機の発生を未然に防いだのでした。取引価値のある手形や証書を保有していれば、イングランド銀行が短期資金と交換する措置をとったのです。
このときイングランド銀行が実施した信用供与額は、イギリス全体の預金額の50%に達しました。このときのイングランド銀行の対応が、後年発生するリーマンショックにおける、世界主要国の中央銀行による前例のない大胆な政策発動の基礎となったのでした。"

各国中央銀行の不景気の際の対応は必ずしも成功しているわけではない

私は証券会社の子会社で、投資信託のファンドマネージャーを務めていますので、不況に陥ったときの中央銀行の対応や、景気が過熱したときの中央銀行の対応については注目していますし、過去の事例も調べています。

私がこの本を読んで学べたことは、過去の不景気時における中央銀行の対応が、すべて成功しているわけではないことでした。失敗している事例もたくさんあります。
代表的な事例としては、第一次世界大戦に敗北したあとのドイツの中央銀行の対応です。戦争敗北後、ドイツは多額の賠償債務を背負いましたが、国土が焦土と化してしまったため生産設備が乏しく産業基盤が脆く、増税をして税収を増やすことは困難でした。このときドイツの中央銀行であるライヒスバンクは、戦勝国に賠償金を支払うために、紙幣を大規模に印刷し続けたのです。

紙幣を大規模に増刷すれば、それだけドイツ通貨の価値は下落します。1920年には1ドル73マルクであった為替レートが、1923年11月には1ドル4兆2000億マルクとなってしまい、その結果、ドイツではハイパーインフレが発生したのです。このハイパーインフレが、ヒトラー台頭の要因となったのでした。

このときのライヒスバンクの失策を知り、国家経済における通貨供給量は経済成長率と一致しなければならないと感じさせられました。そうしないと、物価が不安定化すると考えさせられたのです。

また、現在の日本の政府も、大規模な金融緩和を実施していますが、かつてのドイツのライヒスバンクとは状況が異なると考えられると思います。なぜなら、明確な資金使途がないまま紙幣を増発しているからです。このため現在の日本では、マネタリーベースでは大規模に増額されていますが、マネーサプライは微増の状況となっています。現金が使用されない状況が続いているのです。ですから、大規模な金融緩和を実施していても、日本ではインフレが発生しないのだと思われます。

この本を読んで、自分の仕事に役立っている点は、中央銀行が明確な資金使途を持って、紙幣の大増発を実行すればハイパーインフレが発生し、マクロ経済は不況に陥ってしまうということに気づかされたことです。そして、明確な資金使途はないが、低金利化を促進させることを目的としていたり、通貨安を誘導して輸出産業の振興を促すことを目的に大規模に紙幣を増発するのであれば、マクロ経済にはプラスに働き、マクロ経済は健全な形で成長していき、株価も上昇していくのだと気づかされたのでした。

このため私は、日本政府が2014年10月に追加の大規模な金融緩和を発動したときには、日本経済にはプラスの影響が及ぼされると判断し、躊躇なく株の追加購入に動き大きな利益を得ることができたのでした。

我が国の金融政策に携わっている人は必読

この本は、日本の金融政策に対して強い影響力を及ぼす立場にある方へ、お勧めしたいと思います。つまり国会議員、大学教授、日本銀行の職員、財務省の職員といった方々です。
かつて日本の中央銀行も、失策を犯したことがありました。1990年代にバブル経済退治という名目で過剰に金利を引き上げてしまい、官民に大規模な不良債権を発生させてしまったのです。日本経済は、10年以上にわたって不良債権処理に苦しみ、2003年における都市銀行に対する公的資金注入によって、やっと日本は不良債権問題処理を解決することができました。バブル経済処理を誤った当時の日本銀行総裁は、いまになっても悪評が高いです。
マクロ経済というものは循環します。数年おきに好景気と不景気が入れ替わりにやってきます。しかし、好景気のときに中央銀行が対応を誤って、金利を引き下げてしまえば景気は過熱してバブル経済が発生してしまいます。また、不景気のときに中央銀行が対応を誤って、金利引き下げをためらえば、不景気の期間が長期化してしまいます。
マクロ経済は循環するといっても、中央銀行の対応次第で好景気の期間を緩やかに長期化させることは可能ですし、不景気の期間を短期間に抑制させることも可能です。
中央銀行が持つ政策手段は、金利の変動と、信用供与、そして紙幣の大増刷です。これらの武器を、適切に用いることによって、人口減少に直面している日本社会を景気低迷から救うことが可能となると考えられます。

そして、日本の金融政策について影響力を持つ人物たちは、この本を読んで基礎的知識と金融の歴史を学んでいただきたいと思うのです。

d.hatena.ne.jp

 

マネーの支配者: 経済危機に立ち向かう中央銀行総裁たちの闘い

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