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ビジネス書籍ユーザーレビュー

ビジネス関連書籍の紹介日記です

金融の世界史 バブルと戦争と株式市場 板谷敏彦

本書の著者の板谷敏彦氏は、造船会社から社会人生活を始め、その後、証券会社に転職し海外勤務を経て、みずほ証券営業本部統括に就任し、2006年、退職しヘッジファンド(投資顧問会社)を作り独立しました。船舶関連業の実務、 投資に関するコンサルティング世界の経済史と軍事史など非常に幅広いジャンルで鋭い分析力を発揮しており、現在に至るまで常にビジネスと投資の最前線で戦ってきた説得力が豊富です。

全体としての本書の構成は、人類が商取引というものを初めて行った紀元前数千年の古代まで遡り、各時代各地方における 経済活動の複雑化効率化が時系列で述べられ
現代に生きる我々が抱える問題まで解き明かして行きます。

 まず古代メソポタミアやハムラビ法典の時代からスタートし、シュメール人がまだ貨幣というものを持っていなかった頃既にその時代に金融業が存在し文字と帳簿によって利子の管理すらしていたという、現代社会の我々には驚きの事実が告げられます。

その後の貨幣の創造や本格的な金融業の発展に関して、紀元前には既にオプション取引の原形が出来上がっていたことや中世キリスト教と十字軍に関わったヴェネツィアによる近代式銀行の進展そしてイギリス帝国の大繁栄を呼び込んだ産業革命後の世界に叙述は移って行きます。

そして、次世代で万有引力の原理の発見者であるアイザック・ニュートンが1700年にイギリス王立造幣局の長官になり金本位制を強引に導入したことや、1730年、世界で初めての先物取引所が大坂堂島米会所として作られたことから、現代の商品取引が始まったことなどの驚きの史実も述べられます。

映像が残っている時代の史実になると、板谷氏は得意分野の映画である名作「街の灯」のワンシーンを使って、列強が世界大恐慌へと転落していく世界を 描写してみせます。


第二次世界大戦以降の世界においては、誰にも馴染みの深いブレトンウッズ体制、プラザ合意、 ブラックマンデー、リーマンショックなどの重大事件を核として、主に日米関係を中心として世界が受けた打撃と対処について述べられ、2017年現在の我々の時点までの重大な金融問題のほぼ全てが網羅されていると言っていいでしょう。

 

世界金融の歴史をわかりやすく学べる


本書はコンパクトな世界金融の通史であり、常にわかりやすいプレゼンを求められるビジネス界に生きてきた板谷氏が著わしているので、特に専門知識が無くても留まることなく読み切れると思います。

ただ、第一章の前半部分からいきなり常識を疑うような事実に接して、またその根拠が説明を受ければあっさりと納得できるものですので 、毎回違う章から何度も読み返したくなります。

なぜ「牛や穀物で利子を考える」のかという問いに明確な答えを与えてくれるところから始まります。牛は「利」を生む牛の「子」を増やせるから「利子」なんだ。だから利子という考え方や、それをを公平に取り扱うための銀行というシステムが貨幣よりも先に発生したことがむしろ自然の流れだというところから始まります。

大航海時代の前半に海上を席巻したスペインとポルトガルが、中南米からの銀移入を繰り返したことで、ヨーロッパ全土で銀価格の低迷を呼びドルの語源であり「ターラー」という銀通貨を鋳造して利益を得ていたドイツを衰退させたことなども書かれています。

16世紀後半に入るとヨーロッパ各国は強力な海運力を使って、後の植民地政策の拠点である東インド会社を次々と作りますがその経緯は1602年にオランダが世界で初めて株式会社を作ったことや同じオランダで1637年にチューリップの投機で人類初の原始的なバブルが起こったことなど本書のテーマであるバブルの正体解明の手掛かりにもなります。

18世紀に入ると世界に先駆けて産業革命を成功させ莫大な力と富を手に入れた大英帝国がこの時代の金融においても世界の中心になり、2番目のテーマ「戦争」へと世界が突き進む様子と、その戦争の情報を使って金融資本家が大成長する様子も見て取れます。情報を握る者が勝つとはどういうことかについては南北戦争を舞台にありありと理解させてくれます。

2つの大戦を経た後のアメリカ黄金時代に入ると、通貨の価値の面でも、金融システムの面でもアメリカ一極体制に入ります。それと同時に時代が進むごとに本書の第3のテーマ「株式市場」での日本の存在感が増していくことが示唆されます。通貨安の優位を活かしきっていた日本の製造業に打撃を与えたプラザ合意の顛末と、そして、栄華の頂点であった昭和の終わりとともに何故日本の金融システムは「失われた10年」を避けられなかったのかが考察されます。

最終章では金融と投資に関するリスクを回避する理論の現在の到達点に関して
わかりやすく解説されています。最終章の最終節では、グレート・モデレーション(大安定期)からリーマンショックによる金融危機への流れの特異点や展望を指摘して稿を閉じています。

最後に、著者・板谷敏彦氏の言葉を借りると、この本を書くときは、【「船の歴史」とか「スコッチ・ウィスキーの歴史」とか「カレーの歴史」とかと同じように読んで欲しいと思って書きました。】(著者ブログより)だということです。
これほど複雑な内容を簡潔に説明してしまう板谷氏の叙述力への根拠ある誠実さと自信が窺えます。


これから投資をはじめてみる人におすすめ


世界の金融史を1コラムずつバラバラに概説しているというのが一見した本書の構成ですが、実は各章は「バブルと戦争と株式市場」というテーマで繰り返し重層的に時代を増すごとに複雑かつ深刻に捉えられています。これから投資を始めてみようという方や、これまで金融理論にはあまり興味のなかった方も本書のテーマ「株式市場」がどのように発展してきたかということを知れば、これから先、投資に関する知識を増やしていくにあたってかなりの近道になると思います。

人類が最初に商取引を始めたところまで遡って、利息や貨幣について知ることで
バブル(現在ならリーマンショック)や戦争(現在ならイスラム過激派やロシアの強硬外交)などをどう捉えどう対処していけばいいかを考える道筋をつけてくれます。

著者の板谷敏彦氏は長年証券業務に携わってきたトレーダーでもあり現在も投資顧問会社の最高責任者です。その目は常に利益やリスクを追っています。叙述量もコンパクトであり投資の入門書として最適であると言えるでしょう。

また、これから金融業や証券会社に就職もしくは転職を考えている人にとっても、業務を理解する土台の知識として格好の一冊です。特に後半の日本円と米ドルの関係性の変遷や最終章で解説されている金融商品の知識も必須なので、もし知識として仕入れるのであれば簡潔でスキのない板谷氏の解説であれば理解が深まるのも速いと思います。

www.yutorism.jp

金融の世界史: バブルと戦争と株式市場 (新潮選書)

金融の世界史: バブルと戦争と株式市場 (新潮選書)