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ビジネス書籍ユーザーレビュー

ビジネス関連書籍の紹介日記です

ドリルを売るには穴を売れ 佐藤義典

本書の著者の佐藤義典氏は、NTTの営業部門勤務からアメリカに留学しMBA取得後、再び日本でマーケティングの現場に戻り外資系メーカーでのマネジメント実績を積み、2006年からマーケティングコンサルタント会社を設立し社長に就任しました。

大企業の巨大オペレーションから従業員数10名の小規模な企業のマネジメントまで経験がありまた、それらの体験を統合するための理論を米国最高水準のペンシルバニア大MBA過程で学んだといういわばマーケティングに関して最高の理論家であり最高の実践家であると言う佐藤氏が練り上げた入門書が本書です。

 佐藤氏は、英検一級取得済みの上で英語での討論大会の経験が豊富であり、早稲田大学英語部のヘッドコーチも勤めていることもあって、様々な理論やビジネスの初学者や学生への手ほどきにも熟達しています。このような条件が全て揃って本書の特徴であるマーケティングの本質の「理論」と「実践」の両方を「わかりやすく」伝えるということに成功していると思います。

「ドリルを売るには穴を売れ」の「ドリル」とは表層的にユーザーが欲している物質であり「穴」とは本質的にユーザーが求めている価値です。
ドリルを買いにくるユーザーはもちろんドリルそのものを所有することが目的でなく、自分のニーズにあった穴を開けることが目的で、マーケティングをする側の成功とは、ユーザーが欲しがっている「穴」を的確に見分けて供給することです。
この辺のプライオリティーを取り間違えるとマーケティングはあらぬ方向へ走り出してしまうというメカニズムも知ることができます。

本書の約3分の2の構成は小説形式になっており、倒産の危機に瀕しているレストラン事業を主人公の駆け出しに近い企画営業マンがマーケティングの理論を正しく使ってひとつずつ乗り越えていき成功に導くというストーリーです。
ストーリーの部分で様々な問題が読者に投げかけられ、それを主人公と共に乗り越えていくために各章の理論部分を理解し学習していくという、マーケティング理論の初心者には大変親切な設定になっています。

また、取り扱われている題材は表層的なものではなく本書の題名にある通りの「穴を売る」という目的に向かっての理論に絞られていますので、かなり短時間の間に、ユーザーにとっての価値とは何かという全体像を展望することができます。"

マーケティングの理論をわかりやすく小説にしている

本書はマーケティングの理論分析を扱っているにもかかわらず小説形式をとっているために非常なメリットが何点かあります。

まず主人公の若手企画営業マンが現場へ接触するための手順など、学生や新人会社員にとって知っておくべき必要な知識がさりげなく散りばめられていることです。
社会経験の長い人にとっては読み飛ばしてしまうようなことかもしれませんが、未経験の人にとってはマーケティング理論と同時にビジネスマンの常識も学べると言う、平均的読者層を想定してよく練られた構成になっています。

また即戦力としての知識を欲しい人たちのためにプライオリティーの高い理論から順に取り上げているのも本書の長所です。

まず、世に出版されている様々なマーケティング関連書のほぼ全てで重要な扱いを受けている「買い手」があってこその「売り手」であるということに焦点を当てて
ストーリーの展開も真っ先に「買い手」の分析の重要性から始まります。

「買い手」の感覚に十分に沿うことなくしては、マーケティングの第一歩「穴の見極め」つまりは顧客にとっての価値「ベネフィット」の中身に気づけないという意外な落とし穴を主人公の助言者はさらっとわかりやすく説明します。
理論的なことを考える前にまずマーケットそのものに飛び込んで行って得た体感を出発点として大事にするという習慣を著者は強調しているのです。

ユーザーの感覚を十分に理解することによって、それぞれのユーザーを需要によって分類することができ(セグメンテーション)自分たちの持っている経営資源や企業ポリシーに照らし合わせた上で、利益を生む対象として最も適していると思われるユーザー層を選別(ターゲッティング)することができるという説明が続きます。

「価値の差別化」の項ではユーザーが価値を感じる具体的な場面とその抽象的な中身について、ストーリー部分と理論解説部分で詳述してありマーケティングについて十分な経験がある人にも刺激を与え得る内容になっています。商品にしろサービスにしろ価値について議論するときは、現実に即した方がはるかにわかりやすいので本書の小説形式の構成がもっとも光っています。

後半部分の4P戦略は実際にユーザーに如何に「届け」るか、つまり販売や実践に移すかという課題ですが、この章に関しては、実際に自分が主人公になったつもりで問題解決を図るという、いわば読むというよりも解くというスタンスになると思います。

最終章での実践編のまとめでも切れ味鮮やかに「4つの理論」を著者が使って見せるのですが、そのストーリーの舞台に選んでいる場所も誰にとっても興味がある親しみの持てる場所であり改めて著者・佐藤義典氏の構成力の奥深さに感嘆します。

主人公に近い若手ビジネスマンにおすすめの本

本書は主人公の若手企画営業マン(社会人一年生ではないがビジネスマンとしては駆け出しに近い)にベテランのマーケッターがビジネスを教えていくというストーリー展開になっているので主人公に近い階層の若手ビジネスマンが読むには最高のビジネス書です。

いわば民間企業の社員としては最速のエリートコースだけを進んできたように見える著者・佐藤氏が、本書の冒頭から野菜の買い物などという俗な話題からスタートしていることに違和感を感じる読者もいるかもしれません。
マーケティング理論の前提として「ユーザーの感覚」を知るという意味で八百屋の店先を見て回るというのがすごく重要だということは、優秀な若者にほど伝わりにくいということを佐藤氏は十分わかった上でこのようなストーリーにしたのだと思われます。

また本書は読み流して終わりという参考書ではなく、何度も読み返す内容を持ったマーケティングの理論書でもありますのでマーケティング論に関わっていこうとする学生にも非常に有効な示唆を与えてくれます。

また特別これまで商業理論に関わってこなかった自営業者の方たちにもお勧めできます。
理論書が苦手な方でも、小説として何度か読むうちに自然とマーケティングの感覚が伝わってくるように構成されていますので
自分の経営する店舗の改善方法などを模索したりするきっかけとして十分な力を持っています。

いずれのグループの方たちにも共通して言えるのは、本書の著者の佐藤氏は入門書だけでなくその先のマーケティング実践論も数多く書いているので
自分の置かれた立場によりそれらに目を通すことによってビジネスを効率的に進めていく第一歩になると思います。

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ドリルを売るには穴を売れ

ドリルを売るには穴を売れ