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ビジネス書籍紹介日記

ビジネス関連書籍の紹介日記です

12大事件でよむ現代金融入門 倉都康行

本書の著者、国際金融アナリストの倉都康行氏は東京銀行の国内外支店を経て、外資系金融機関の管理業務を歴任した後2001年春にRPテック株式会社を設立し代表取締役に就任し現在に至っています。
立教大学経済学部の講師や大手マスコミ系ビジネス誌の編集人を勤めていることからもわかる通り、自ら金融コンサルティング業務を指揮する傍ら、経済系のマスコミに金融リスクなどへの分析を精力的に発表しそれらを統合した著書も多数あります。

 過去の金融実務の理論の体系化から始めて、現在の国際金融の実態に対する分析、そして今後の金融ビッグマネジメントに関する処方箋の提案まで、過去現在未来にわたって自らの金融機関における取り組みから得た事実を元にした鋭い分析と対策に定評がある中で、本書では特に歴史分析に重点が置かれています。

本書「12大事件でよむ現代金融入門」では、1971年に我々日本人にとっては不意打ちで訪れた米ドルと金の兌換停止といういわゆるニクソンショックから説き起こされています。
人類は貨幣の製造技術がなかった頃から債権債務や投資のリスク分散など数千年にわたって金融技術を発展させてきましたが
それがこのニクソンショックを契機としてついに爆発的なスピードでグローバリゼーションに突入していきます。

ニクソンショック当時まだ高校生だった著者でさえも当時を述解して

「専門知識などはなかったがとにかくこれは大変なことが起きている」と振り返っているぐらいですから金(ゴールド)が貨幣の世界から切り離され、世界中のお金(マネー)の価値全てが相対的に相手を規定し合うという時代になったことが如何に衝撃的だったかということがわかります。

実際には今だ米ドルが基軸通貨であり、金(ゴールド)や他の国の通貨の価値をはかる物差しですが、その後の金融重大事件として著者が取り上げる中南米金融危機、プラザ合意などから最近のリーマンショックに至るまでの歴史の展開で
1970年以前には考えられなかったスピードでグローバリゼーションが進んでいます。

そういった歴史的経過のなかで「金融の現代史」をニクソンショックから説き起こすのはとても意味のあることです。
金融理論に初めて関わる読者にも非常に理解しやすい出発点だと思われます。

 

ニクソンショック以後の世界金融の流れを学べる

第二次世界大戦の終盤1941年から続いたブレトンウッズ体制は、1トロイオンス=約31.1グラム=35米ドル、という交換レートでアメリカ政府がドルと金の兌換を保証し

アメリカが経済力と軍事力な圧倒的な強さによりドルの絶対的価値を世界的に規定したものでした。他の主要国は、米ドルとの交換レートを固定することによって自国の通貨の価値を規定したので、現在に見られるような貿易における為替リスクのようなものはほぼ存在しませんでした。
そのブレトンウッズ体制の崩壊の始まりが本書の第1章「ニクソンショックの衝撃」で取り扱われます。

それ以前は少なくとも主要国同士では安定していた為替レートがニクソンショックから大きく揺らぎ始め約10年後には、メキシコとアルゼンチンから始まる南米金融危機が世界中に波及します。
著者の分析では、南米最大でかつ成長力も最速だったブラジルや、先進国の一歩手前までの経済離陸をしていたアルゼンチンが原油価格の急上昇による大打撃を受け
その後長期間における中南米の経済成長の足かせになっているという分析が加えられています。


ニクソンショックはアメリカが金本位制を放棄したいわばドル安への「決意表明」でしたが1985年のプラザ合意は「実力行使」でした。
倉都氏の分析によると1981年から1989年まで続いたレーガン政権は、減税と軍事費増大でアメリカ政府の財政を逼迫させたため、アメリカ製品の競争力を向上させて経済的主導権を取り戻そうという意図のもとに英・仏・西独・日に大幅なドル売り介入によるドル安政策を要求し、ほぼその目的を達しました。またこれを契機とする日本円の対米ドルでの爆発的な急上昇が、のちの日本のバブル崩壊の重要な一因になったことも指摘されています。

ブラックマンデーと日本のバブル崩壊についても詳述されており、特に日本における金融不況が極端に長引き、金融機関における隠蔽体質や責任回避がなぜ常態化してしまったかの分析にも踏み込んでいます。そして1992年現代金融市場における転換点になる「ポンド危機」という大事件が起きます。

これまでの国際金融においては主役は国家であり政治権力者でしたが
一個人で一企業経営者であるだけのジョージソロスという男が金融市場の支持という力を背景にしてレバレッジ取引を使いイギリスの中央銀行の政策の前に立ちはだかりました。ヨーロッパの共通通貨への参加の準備段階としてEU各国は自国通貨の価値の維持に努める協定があり、当時のイギリスポンドは下降気味だったためにイングランド銀行はドル売りポンド買いで自国通貨の防衛に務めていました。

これを大量のポンド売りで潰しにかかったのがソロス氏で、結果としてイングランド銀行は敗北しイギリスはヨーロッパ共通通貨構想から離脱します。

この後のアジア危機、ITバブル崩壊、リーマン危機と著者の分析は続いていきますが

今この時を生きている我々にとってやはり一番の興味は、ユーロという共同体の分裂騒ぎではないでしょうか。

著者はEU分解に対する結論は出していませんが、ギリシャの通貨問題に対する分析を通して、いわゆる「ヨーロッパの南北問題」つまり欧州における国家間の貧富差の問題をよく理解することができます。
この視点は2017年現在での喫緊の課題であるアフリカからの難民問題にも直結していてとても興味深いと思います。

 これから投資をはじめる人たちにおすすめ

本書は米ドルが絶対的な通貨ではなくなって、また情報の集積や移動が桁違いに増大し
金融というものが人間のこれまでの歴史にはなかったほど激しく変転し始めた1970年以降の国際金融の歴史についてが主題です。

歴史解説書であるとともに全てこの40年の間に起こったことで、詳細な記録などが残っており金融理論や外国為替に関する知識が過不足なく含められています。
特に後半の各章は投資に関するリスク回避の発想が散りばめられており大変有用です。

そもそも著者の倉都氏は自らが民間企業での投資トレーダーの経験が豊富であり
これからFXやなどの投資を始める予定のあるビジネスマンや主婦の方たち
将来的に金融関連の実務に就きたいと思っている学生さんなどが
実際の国際金融の歴史の政治的な展開と、金融理論の初歩を知るための最適な入門書と言えます。

また、全てその時々に実際にあった経済事件でありマスコミの俎上で議論になったものばかりですので
年配の方や若者を問わず、自分が興味を持った事件からコラムなどを気楽に読んでみると気づかないうちに金融や国際政治の感覚が備わっていくと思います。

 

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12大事件でよむ現代金融入門

12大事件でよむ現代金融入門