読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ビジネス書籍ユーザーレビュー

ビジネス関連書籍の紹介日記です

石油の帝国 エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー スティーブ・コール

これは、ピュリツァー賞を受賞したことのあるスティーブ・コール氏が書いた本です。
この本は、国際的に事業展開をしている巨大な石油会社であるエクソンモービル社が、過去20年の間、世界で展開したビジネスを描いています。そして、ビジネスを成功させるために何をしてきたかを描いています。

具体的には、政治とは一定の距離を置き、あくまでもビジネスで成功することを主目的とするエクソンモービル社の企業行動を描いています。

そして、ビジネスの主目的とは、証券会社からの高い評価を維持し続けるために、エクソンモービルの企業価値の判断基準となる石油の埋蔵量を増やし続けることなのです。

そのためには、中東やアフリカ、インドネシアなど政治が不安定な地域にも進出し、その国の政治情勢に適した形で現実主義的なアプローチをしていく企業行動を描いています。

エクソンモービル社は、本社を置いているアメリカ政府に対しても一定の距離を置いています。もちろんロビー活動を行ってはいますが、自社のビジネスに有利に展開するように、アメリカ政府を動かすべくロビー活動を行うのではなく、石油産業はこれからもエネルギー産業として必要不可欠であるという視点を軸にしてロビー活動を行っています。

また、海外の治安が不安定な地域において油田などの権益を獲得する場合には、リスクに見合った利益を要求し、獲得することに成功しています。逆に、リスクに見合った利益を得られなければ、いさぎよく交渉から撤退しています。

具体例としては、アフリカにおけるチャドにおいて油田権益を獲得した際には、仮にチャドでクーデターが発生し政府が交代しても、エクソンモービル社が持つ権益は誰からも脅かされないという内容の契約を締結し、自社が獲得した権益を盤石なものにしています。一方、インドネシアのアチェ地方で保有し、操業している権益を維持するために、エクソンモービルはインドネシアの治安当局が反政府勢力に対しておこなっている非人道的行為については黙認しています。

1970年代に中東各国における油田の国有化にともない、一時的に巨大な権益を喪失したエクソンモービルでしたが、治安の悪い国々へも積極的に進出し、それら各国の指導者たちと緊密な関係を築いていく姿を描いているこの本は、優れた調査報道の本だと思われます。

石油市場におけるサウジアラビアの影響力の強さを学べる

私は投資信託のファンドマネージャーという立場から、原油価格の動向や、石油会社の業績には注意を払ってきました。その観点から、石油業界について勉強したいと思い、この本を読みました。

この本を通じてエクソンモービル社の企業行動の判断基準や、エクソンモービルの行動を通じて原油の世界の力関係を読み解くことができました。そして、原油の世界ではサウジアラビアが巨大な影響力を持っていることがわかりました。中東各国はOPECというカルテルを結成していますが、事実上は、サウジアラビアが原油を減産すれば原油価格は上昇し、サウジアラビアが原油を増産すれば原油価格は下落するのです。現代では、OPEC以外にもロシアやインドネシア、ベネズエラ、赤道ギニアなど産油国はたくさんあります。

しかし、そのなかでも圧倒的なシェアを誇るのがサウジアラビアなのです。ですから、エクソンモービル社のような巨大な石油会社でさえ、サウジアラビアのような絶対優位性を持った石油国家に対しては交渉において不利に陥り、その結果、アフリカ諸国のようないつ軍事クーデターが発生するかわからない国へ進出せざるをえないことを学ぶことができました。

もちろん、原油価格の変動については、実際の需要と供給も大いに関係しています。中国やブラジルなどの新興国の経済成長によって、原油に対する需要は高まっています。

しかし、それでも原油の採掘技術が進化していることにより、原油の産出量を増やしたり、エクソンモービルなどの石油会社が新たな原油の鉱区を採掘し、生産を開始するため、原油価格が高騰することはありません。サウジアラビアの原油価格に対する影響力の巨大さを、この本を通じて学ぶことができました。

私がこの本を読んだあと、2016年に入ってから原油価格が大幅に下落し、1バレル20ドル台をつけたことがありました。しかし、私はこの本を読んだおかげで、この世において石油に対する需要が消滅することはないと判断できましたし、サウジアラビアが大幅な増産を続けていることによって原油供給がだぶついて原油価格が下落していることが、わかっていました。

このため、いずれサウジアラビアが原油の増産をやめて減産に方針転換するだろうと判断することができました。
この本に基づいて私は冷静に判断することができ、石油会社の株式を底値近辺で買うことができ、大幅な利益を得ることに成功できました。

海外赴任を控えているビジネスパーソンにおすすめ

政治家や官僚、一般のビジネスマン、そして個人投資家といった幅広い方たちに、この本をお勧めできると思います。この本で原油の世界を学ぶと、そのまま国際政治の過酷さを学ぶことができます。

とくに日本は資源のない国家であり、日本政府や日本の商社は、原油やガスなどの権益を求めて外国と交渉を重ねており、自前で原油やガスを供給できる能力を高めたいと思っているはずです。ですから、特に政治家や官僚、海外赴任を控えているビジネスマンには原油の世界を通じた国際政治を、この本で学んでいただければと思います。

また、株式投資をしている投資家の方たちにおいては、この本を読むことによって、けっして原油の埋蔵量は減少しないのだということが理解できると思います。採掘技術が年々進化するため、どんどん深く掘り進むことができるためです。実際、アメリカではシェールオイルの採掘が進んでおり、原油を輸入する必要がなくなっています。

原油の世界を知ることは、日本経済の物価動向を判断できることにつながりますし、石油会社に対する投資判断もしやすくなると思います。

markethack.net

石油の帝国―――エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー

石油の帝国―――エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー